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【症例報告】高齢猫の複合的慢性疾患との向き合い方






高齢猫の複合的慢性疾患との向き合い方 – ある症例報告

高齢猫の複合的慢性疾患との向き合い方 – ある症例報告

愛玩動物看護師です。本日は、私が長年担当させていただいている、ある高齢の猫ちゃんの症例についてご報告いたします。この症例は、複数の慢性疾患がどのように相互作用し、日々のケアにどう影響するか、そしてご家族と医療チームの連携がいかに重要かを示しています。包括的なケアの実際について、具体的な情報と共に共有できれば幸いです。

症例プロフィール


  • 猫ちゃん: 13歳(雌・避妊済)
  • 初診時のご相談: 「右上の歯が下の歯茎に刺さっているようだ」との主訴に加え、2ヶ月前から続く嘔吐・下痢、および食欲不振。
  • 主な診断名:
    • 免疫介在性溶血性貧血 (IMHA)
    • 慢性腎臓病 (CKD)
    • 心疾患(拘束型心筋症の疑い)
    • 反復性膵炎
    • 尿管結石

診断と治療経過

この猫ちゃんは、複数の主要な臓器にそれぞれ慢性的な疾患を抱えています。それぞれの疾患に対する具体的な検査所見と治療アプローチについてご報告します。

1. 免疫系の疾患:免疫介在性溶血性貧血 (IMHA)

  • 初診の4年前に診断された基礎疾患です。自身の免疫が赤血球を破壊するため、重度の貧血を引き起こす可能性があります。
  • 治療の主軸として、免疫抑制剤であるシクロスポリンを継続的に投与しています。
  • 定期的な血液検査(CBC)で、ヘマトクリット値(HCT)やヘモグロビン値(HGB)を監視し、貧血の進行度を評価しています。

2. 心臓の課題:心疾患と急性心不全の兆候

  • 心エコー検査では、心筋の収縮力を示す指標(FS%)の低下が繰り返し確認されています。
  • 治療として、心筋の収縮を助ける強心薬(ピモベハート)と、心臓の負荷を軽減するACE阻害薬(ベナゼハート)を併用しています。
  • 最近、安静時にも呼吸が速くなる症状が出現しました。これは心臓の負荷増大による肺水腫(うっ血性心不全)が疑われるため、利尿剤(ルプラック)を緊急的に使用し、呼吸状態の改善を図りました。

3. 腎臓の問題:慢性腎臓病 (CKD) と尿管結石

  • 血液検査において、腎機能の指標であるBUN(尿素窒素)およびCRE(クレアチニン)の持続的な上昇が認められます。
  • また、尿検査では、腎臓の尿濃縮能力の低下を示す低い尿比重(1.017)が確認されています。
  • ご家族によるご自宅での皮下点滴療法が、脱水補正と腎血流の維持に不可欠な治療となっています。
  • 過去には、超音波検査で左尿管の拡張が発見され、尿管結石による閉塞が原因の急性腎障害を発症。集中的な入院管理を要する深刻な状態に陥りました。

4. 消化器系の問題:反復性膵炎と消化管運動不全

  • 臨床症状と血液検査でのリパーゼ(LIP)値の上昇から、反復性の膵炎と診断されています。
  • 膵炎は強い嘔吐と腹痛を伴うため、強力な制吐剤(マロピタット)の投与が頻繁に必要となります。
  • 食欲が完全に廃絶する期間が長く、ご家族によるシリンジを用いた強制給餌が、生命維持のために不可欠なサポートとなっています。
  • また、レントゲン検査で宿便が確認され、便秘に対する浣腸処置を行ったこともあります。

包括的なケアと今後の展望

この症例のように、複数の疾患が絡み合う場合、一つの治療が他の臓器に影響を及ぼす可能性があります。例えば、心不全に対して利尿剤を使用することは、腎臓の血流を低下させ、腎機能に負担をかけるリスクを伴います。そのため、常に複数の指標を監視し、個々の治療薬のメリットとデメリットを慎重に評価しながら、治療のバランスを調整することが求められます。

この複雑な病態管理において、ご家族による日々の詳細な看護記録と観察眼は、客観的な情報として極めて重要です。「昨晩の呼吸数」「自ら水を飲んだか」「尿の回数と量」といったご報告の一つひとつが、私たちの治療方針を決定する上で、検査データと同等に貴重な判断材料となります。

現在、この猫ちゃんの治療目標は、病気の根治ではなく、症状を緩和し、穏やかな時間を一日でも長く維持する「緩和的ケア」にあります。ご家族と私たち医療チームが密に連携し、日々の生活の質を支えること。それが、今の私たちの務めです。

このような症例に深く関わらせていただくことは、専門職として多くの学びを得ると同時に、その責任の重さを再認識する貴重な機会であると考えております。