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【症例:去勢手術と乳歯抜歯】痛みを抑え込む周術期管理と、生涯のQOLを決める予防医療

本日は、生後7ヶ月、体重3.3kgのポメラニアンの患者さんに実施した「去勢手術および乳歯抜歯」の症例を通じて、予防医療の真の意義と、当院の周術期管理(麻酔・手術前後の管理)についてお話しします。

外科手術は、ただ「切って縫う」だけではありません。将来の致命的なリスクを排除するための論理的な選択であり、患者さんの生涯のQOL(生活の質)を決定づける重要なプロセスです。

手術を支える「徹底した術前検査」と「予防の土台」

全身麻酔を安全にかけるためには、事前の確実な健康管理と客観的なデータ評価が不可欠です。

  • 継続的な予防の徹底:この患者さんは、定期的な混合ワクチン接種に加え、毎月のフィラリア・ノミ・マダニ予防薬を欠かさず投与されていました。事前の血液検査でもフィラリア陰性が確認されています。
  • 客観的データに基づく麻酔評価:術前には血液検査(肝腎機能、貧血の有無など)および胸部レントゲン検査を実施しました。心雑音や脱水などの異常がないことを確認した上で、安全に麻酔に耐えうると判断し、手術に臨んでいます。

なぜ「健康な体にメスを入れる」のか?〜放置が招く残酷な未来〜

今回、去勢手術と同時に「乳歯遺残(抜け落ちずに残ってしまった乳歯)」の抜歯を実施しました。これらを「自然に任せて様子を見る」と判断した場合、将来的に以下の明確な苦痛を患者さんに強いることになります。

未去勢が引き起こす致命的な疾患

  • 精巣腫瘍(造血機能の破壊):精巣が腫瘍化(特にセルトリ細胞腫など)すると、過剰な女性ホルモンが分泌され、血液を造る骨髄を破壊します(エストロゲン毒性による骨髄抑制)。極度の貧血により意識が朦朧とし、鼻や腸からの出血が止まらず、多臓器不全に至る凄惨な結末を迎えます。
  • 前立腺肥大と会陰ヘルニア(臓器の壊死):男性ホルモンの影響で前立腺が肥大すると、直腸が圧迫されて排便のたびに激痛が走ります。その「慢性的なきばり」によってお尻の筋肉が決壊し、腸や膀胱が皮下に飛び出すのが「会陰ヘルニア」です。飛び出した膀胱が筋肉の穴で締め付けられる(嵌頓:かんとん)と、尿が一切出せなくなり、パンパンに膨れ上がった膀胱の激痛とともに、数日で尿毒症を発症して命を落とします。

乳歯遺残を放置するリスク

  • 残存した乳歯と永久歯の間に歯垢が蓄積し、若齢から重度の歯周病を引き起こします。進行すれば顎の骨が溶けて骨折するだけでなく、口腔内の細菌が血流に乗って心臓や腎臓を破壊します。

痛みを抑え込む麻酔・鎮痛と、安全を追求した外科手技

当院では、手術による生体への負担を最小限にするため、以下のプロトコルを徹底しています。

  • 切る前から痛みを封じる「先制鎮痛」:術後に痛み止めを使うのではなく、麻酔導入剤に加え、医療用麻薬などの強力な鎮痛剤を組み合わせた「マルチモーダル鎮痛」を実施します。痛みの回路を事前に遮断することで、覚醒時の苦痛を最大限取り除きます。
  • 体内に糸を残さない「シーリングデバイス」の活用:犬の去勢手術は日帰りで実施しています。手術には、熱と圧力で血管を確実に閉鎖・切断する「シーリングデバイス」を使用しています。体内に縫合糸(異物)を残さないため、術後の「縫合糸反応性肉芽腫」などの合併症リスクを排除でき、手術時間の大幅な短縮によって麻酔の負担を軽減します。
  • 術後のケア:退院後は抗生剤を処方し、ご家庭での術後感染を予防します。

予防を怠る絶望と、当院の「命に向き合う覚悟」

最後に、フィラリア症や重度の呼吸器感染症(猫風邪の重症化など)に対する当院のスタンスをお伝えします。

予防薬の投与を怠りフィラリアに感染した場合、成長した素麺状の寄生虫が心臓と肺の血管に詰まり、右心不全を引き起こします。陸の上にいながら溺れているような「極度の息苦しさ」が24時間続き、横たわって休むことすらできず、血を吐きながら心原性ショックで亡くなるという、極めて残酷な経過を辿ります。

私たちは、このような悲劇を防ぐための予防医療と初期診療に全力を注いでいます。しかし、当院にはCTやMRIといった高度画像診断装置は保有しておりません。神経疾患や複雑な内部疾患など、当院の設備の限界を超える症例と判断した場合は、自院での治療に固執することは決してありません。

患者さんの命とQOLを守ることを最優先とし、迷わず二次診療施設(大学病院や専門医)へ責任を持ってご紹介し、連携して命を救う道を選択します。それが、外科医として、そして獣医師としての誠実さであると考えています。


Summary (English)

This article discusses the critical importance of preventive medicine and perioperative management, using a case study of a 7-month-old Pomeranian undergoing castration and extraction of retained deciduous teeth.

We emphasize that leaving these conditions untreated can lead to severe future complications, such as testicular tumors, prostatic hyperplasia, perineal hernia, and advanced periodontal disease. To ensure the highest safety, thorough preoperative exams are conducted. We utilize advanced techniques like preemptive multimodal analgesia to minimize pain and a vessel sealing device for sutureless, short-duration surgery.

Furthermore, we stress the fatal risks of neglecting preventives for diseases like heartworm. Our clinic is committed to saving lives; thus, for complex cases requiring advanced imaging (CT/MRI), we promptly refer patients to secondary care facilities to prioritize their quality of life.

摘要 (中文)

本文通过一例7个月大博美犬的绝育及乳牙拔除手术,探讨了预防医学的真正意义与我院的围手术期管理(麻醉及手术前后的管理)。

如果不进行这些手术,未来宠物将面临睾丸肿瘤、前列腺肥大、会阴疝以及严重牙周病等致命并发症的风险。为了保证麻醉和手术的安全,我们不仅要求严格的术前检查和日常预防,还采用“超前镇痛”及血管闭合系统(无缝线手术),以最小化患宠的痛苦并降低并发症风险。

此外,文章重申了忽视心丝虫等预防工作的严重后果。我院始终将患宠的生命和生活质量放在首位,在遇到超出本院设备(如CT/MRI)能力的复杂病例时,会毫不犹豫地转诊至专科医院或大学附属医院,以最诚恳的态度守护生命。