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【軟部外科症例】頭頂部および下顎口唇部の体表腫瘍(類皮嚢腫・皮膚組織球種)切除術

頭頂部および下顎口唇部の体表腫瘍切除術に関する外科症例報告

今日お話ししたいこと


今回は、中高齢の患者さんにおいて、異なる時期に発生した頭頂部から鼻梁にかけての皮膚結節、および下顎口唇部の腫瘤に対して実施した外科的切除の症例報告です。体表腫瘍の切除は一般的な手術と思われがちですが、顔面周囲の手術は神経や血管が密集しており、特有のリスクが存在します。本記事では、当院における外科的介入の判断基準、病理結果、そして避けられないリスクについて事実に基づき解説します。

検査結果と「外科的適応」の判断

初診時、患者さんの頭頂部には約2cmの脱毛を伴う病変があり、鼻梁の皮下にも結節が広がっていました。さらに後日、下顎(口唇部付近)にも約1cmの腫瘤の発生が確認されました。

体表の腫瘍は、術前の細胞診のみで悪性・良性を完全に確定することは困難です。特に、病変が拡大傾向にある場合や、顔面という解剖学的に皮膚の余裕がない部位に発生した場合は、完全切除が不可能になる前に早期の外科的切除および病理組織検査を行うことが「外科的適応」となります。

もしこのまま様子を見たら(放置した場合の残酷なリスク)

もしこれらの腫瘍を「可哀想だから」「まだ元気だから」と外科的介入を見送り放置した場合、患者さんが直面する未来は残酷です。

  • 腫瘍の増大と自壊:腫瘍は増大し、やがて皮膚が破裂し出血や化膿が持続する状態(自壊)を起こします。顔面周囲で自壊が起きれば、重度の痛みと腐敗臭が発生し、食事や飲水すら困難になります。
  • 神経・深部組織への浸潤:鼻梁部の腫瘍が顔面神経や深部組織へさらに浸潤した場合、外科的な切除限界を超え、最終的には多大な苦痛を伴いながら衰弱死に至ります。これが「様子を見る」という選択のリアルな代償です。

基礎疾患による麻酔リスクと当院の鎮痛プロトコル

本症例の術前胸部レントゲン検査において、呼吸器系の基礎疾患である「気管虚脱」が確認されました。気管虚脱を持つ動物は、全身麻酔の導入時の気管挿管や抜管時に、気道閉塞による窒息や呼吸不全を引き起こすリスクが健常な動物よりも格段に高くなります。

この致死的リスクを制御するため、当院では以下のプロトコルを徹底しています。

  • 術中血圧管理の徹底
  • 局所浸潤麻酔の積極的活用:患部の痛覚経路を直接遮断することで、全身麻酔の深度を不必要に深くすることなく十分な鎮痛を得て、呼吸器・循環器への負担を最小限に抑え、論理的に麻酔の安全域を広げています。

選択した術式とその根拠、および致死的合併症

  • 頭頂部・鼻梁部の腫瘍切除:当初の切除範囲を拡大し、正常組織から5mmのマージン(安全域)を確保して切除を行いました。鼻梁部の病変は顔面神経の一部を巻き込む状態であったため、神経を温存しつつ慎重に剥離しました。
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  • 下顎口唇部の腫瘤切除:後日発生した下顎の腫瘤についても、同様にマージンを確保して外科的切除を実施しました。
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【術後の致死的・重篤な合併症】
顔面の手術における最大の技術的注意点は、顔面神経と血管の温存です。術後合併症として、顔面神経麻痺(瞬きができなくなり角膜穿孔や失明に至るリスク)、口唇周辺の皮膚の癒合不全・壊死、術後出血による気道閉塞などが挙げられます。これらは発生頻度こそ低いものの、ひとたび発生すれば取り返しのつかない事態を招く致命的な合併症です。

術後管理と夜間監視の「リアルな限界」について

  • 早期退院の方針:当院では術後入院を原則1〜3日とし、静脈点滴が必須な期間のみに留めています。動物にとって病院での滞在は極度の精神的ストレスであり、免疫力の低下を招くため、早期に家庭内でのリハビリへ移行することが医学的に最善であると考えています。
  • 夜間監視とペインコントロール:当院の夜間は「スタッフ不在(無人)」となります。これを隠すつもりはありません。ただし、ペットカメラによる遠隔監視を徹底しており、動物が痛みで眠れていない等の異常を検知した場合は、深夜であっても院長自らが病院へ赴き、追加の鎮痛薬投与を行います。しかし、「翌日の診療に備えるための仮眠時間」や「自宅からの移動時間(約30分)」のタイムラグが確実に存在します。その数十分の間に突発的な致死的不整脈や呼吸停止が起きた場合、救急対応が間に合わないという物理的限界があることを事前にご理解ください。

起こり得る合併症と、術後の見通し(病理結果)

切除した組織を外部機関での病理組織検査に提出した結果、頭頂部および鼻梁部の病変は「類皮嚢腫(良性の先天性・発育性嚢胞)」であり、マージンを含め無事に完全切除の判定を得ました。また、後に切除した下顎の腫瘤は「皮膚組織球種(良性腫瘍)」という診断でした。

本症例の術後トラブルとして、患者さんがエリザベスカラーの隙間から患部を掻いてしまい、自己抜糸をしてしまう事態が発生しました。幸い皮下の縫合が保たれていたため再縫合には至りませんでしたが、術後管理(カラーの厳重な着用や安静)が破綻すれば、傷口が開いて再手術が必要になるリスクが常に伴うことを示す一例です。

当院の外科体制と高度連携について

当院の軟部・腫瘍外科では、後腹膜より腹側の一般軟部、および体表腫瘍(皮弁形成を含む)に対して広く対応可能な設備と技術を有しています。肝臓腫瘍についても、主要血管を巻き込まない辺縁切除までは対応可能です。

しかし、患者さんの命を最優先に考え、明確な適応外基準も設けています。副腎摘出などの最深部アプローチ、尿管結石摘出、および事前の重度貧血により術中に多量の輸血が必要と想定される症例に関しては、当院で抱え込まず、直ちに二次診療施設(高度医療機関)へご紹介いたします。

院長からのメッセージ

外科手術は、どれだけ入念に準備をしても100%の安全が保証されるものではありません。全身麻酔をかけ、メスを入れる以上、そこには常に「命を落とすリスク」が存在します。私たちはその事実から目を逸らさず、冷徹なまでに論理的なリスク評価とプロトコルの遵守によって、その確率を限界まで抑え込んでいます。

「様子を見る」という残酷なリスク、夜間無人の限界、合併症のリスク。これらの不都合な真実をご理解いただいた上で、ご家族の皆様には「その手術が本当にこの子のためになるのか」をご決断いただきたいと考えています。

Summary

  • English: This case report details the surgical excision of cutaneous tumors (dermoid cyst on the head/nasal bridge and cutaneous histiocytoma on the lower lip) in a middle-aged patient. The patient also had a pre-existing respiratory condition (tracheal collapse), which significantly increased anesthesia risks. To mitigate these life-threatening risks, we utilized local infiltration anesthesia to reduce the depth of general anesthesia, ensuring stable cardiopulmonary function. The tumors were successfully removed with adequate surgical margins while preserving critical facial nerves. We also outline our strict post-operative protocols, including early discharge to minimize stress and remote overnight monitoring with emergency pain management.
  • 中文: 本病例报告详细描述了一名中老年患者接受体表肿瘤切除术(头顶部/鼻梁部的皮样囊肿,以及下唇部的皮肤组织细胞瘤)的过程。由于该患者患有气管塌陷这一基础呼吸道疾病,麻醉风险极高。为了控制这些致命风险,我们采用了局部浸润麻醉以降低全身麻醉的深度,从而确保心肺功能的稳定。手术成功切除了肿瘤并保证了足够的安全边缘,同时完好保留了关键的面部神经。我们还介绍了严格的术后管理方案,包括为减少动物压力而采取的尽早出院策略,以及夜间远程监控与紧急镇痛管理。