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【重度尿道閉塞に対する会陰尿道瘻造設術:命を救うための外科的介入】

今日お話ししたいこと:手術に至った経緯と目的


今回ご紹介するのは、約6歳のオスの患者さん(体重約5.6kg)のケースです。

数年前に血尿や頻尿があり、特発性膀胱炎を疑って治療した既往歴がありました。

今回は「昨日から全く尿が出ておらず、複数回嘔吐している」という主訴で来院されました。尿が体外に排出されない状態は、数時間単位で全身状態を悪化させます。今回の手術の目的は、物理的な閉塞を根本的に解除し、急性腎不全による死の危険から患者さんを救うことでした。

検査の結果と「外科的適応」の判断

  • 重度の尿毒症:腎機能の指標であるBUNは測定上限を振り切る140mg/dL以上、クレアチニン(CRE)は10.16mg/dLに達していました。
  • 致死的な高カリウム血症:カリウム値が7.8mEq/Lまで上昇しており、いつ心停止を起こしてもおかしくない状態でした。
  • 直ちにカテーテルによる導尿を試みましたが、尿道先端に強固な栓子があり、尿道粘膜も重度に損傷して出血している状態でした。
  • 外科適応の決断:内科的な解除は不可能であり、麻酔のリスクは極めて高い状態でしたが、命を救うためには直ちに外科手術へと踏み切る適応であると判断しました。

もしこのまま様子を見たら(放置した場合の残酷なリスク)

「麻酔が怖いから、少し様子を見たい」とお考えになるお気持ちは痛いほど分かります。しかし、尿道閉塞において「様子を見る」ことは、確実な死を意味します。

  • 全身への毒素循環:尿として排出されるはずの老廃物が全身を巡り、激しい吐き気と意識障害を引き起こします。
  • 突然の心停止:高カリウム血症により、心臓の筋肉が正常に動かなくなり、突然の心停止を迎えます。
  • 膀胱破裂の激痛:限界まで膨らんだ膀胱が破裂し、腹腔内に尿が漏れ出し、想像を絶する痛みを伴う腹膜炎を起こします。

選択した術式とその根拠

  • 会陰尿道瘻造設術(えいいんにょうどうろうぞうせつじゅつ):今回選択した術式です。オスの猫の尿道は、先端に向かって非常に細くなっています。この術式は、詰まりやすい細い尿道部分を切除し、骨盤近くの太い尿道を直接皮膚に縫い付けて、広い尿道口を新たに作る手術です。
  • 周術期の麻酔・鎮痛プロトコル:重篤な腎不全と高カリウム血症を伴うため、麻酔薬の代謝と血圧低下には細心の注意を払いました。当院では痛みを最小限にするため、メデトミジンやケタミンなどの鎮痛効果を持つ薬剤を体重に合わせて厳密に計算し、マルチモーダル(多角的な)鎮痛プロトコルを実施しました。
  • 手術中の痛みを脳に伝えないことが、術後の回復を早める最大の鍵となります。

術後管理と夜間監視について

  • 早期退院の方針:術後の入院は原則1〜3日とし、静脈点滴での尿毒素の排泄が必須な期間のみに留めます。本症例でも、術後に急速に腎数値が改善したのち、速やかに退院としました。動物にとって見知らぬ病院での長期入院は強い精神的ストレスになるため、精神的な安心感による自己治癒力を高める目的で早期の家庭内リハビリへの移行を推奨しています。
  • 夜間監視と徹底したペインコントロール:当院の夜間はスタッフ不在(無人)となります。この事実を隠すことはいたしません。
  • しかし、院内にはペットカメラを完備し、遠隔から患者さんの呼吸状態や体動を継続的に監視しています。もし、動物が疼痛で眠れていないなどの異常を検知した場合は、深夜であっても院長自らが病院へ赴き、追加の鎮痛剤投与や処置を行います。「痛みを絶対に見過ごさない」ことが、当院の外科管理の根底にあります。

起こり得る合併症と、術後の見通し

手術によって命の危機は脱しましたが、外科手術には常に合併症のリスクが存在し、それらを正しくお伝えする責任があります。

  • 新たな尿道口の狭窄:縫合部が治癒する過程で傷口が縮んでしまい、再び尿が出にくくなるリスクがゼロではありません。
  • 上行性尿路感染症のリスク増加:尿道が太く短くなるため、細菌が膀胱へ侵入しやすくなります。実際に本症例でも術後に大腸菌の検出があり、抗生物質(アモキクリア)の内服治療が必要となりました。
  • 術後も定期的な尿検査による経過観察が、生涯にわたり必要不可欠となります。

当院の外科体制と高度連携について(紹介ポリシー)

  • 当院では、本症例のような「後腹膜より腹側の一般軟部外科」や「体表腫瘍の手術」に対しては、広く安全に対応できる体制を整えています。
  • しかし、自院の限界を正確に把握し、患者さんの命を最優先に考えるのが私たちのポリシーです。尿管結石の摘出、副腎摘出などの最深部へのアプローチが必要な手術、または輸血準備がないため術前に重度貧血が想定される症例については、当院での手術は行いません。速やかに二次診療施設(高度医療センター)をご紹介し、命を繋ぎます。

院長からのメッセージ

愛するご家族が突然の危篤状態に陥り、さらに「ハイリスクな緊急手術」を提示された際の飼い主様の恐怖と不安は計り知れません。

私たちは感情論だけでなく、確かなデータと論理に基づき、動物たちの「痛み」と「命」に真正面から向き合います。今回、重度な尿毒症を乗り越え、再びご自宅でご飯を食べ、お水を飲めるようになった姿を見られたことは、外科医としての何よりの喜びです。

当院はこれからも、論理的な誠実さをもって、皆様の大切なご家族の命をお守りします。

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Summary / 摘要

[English]
A 6-year-old male cat presented with severe urethral obstruction, acute kidney injury (BUN >140mg/dL, CRE 10.16mg/dL), and lethal hyperkalemia (K 7.8mEq/L). Due to the failure of medical catheterization, an emergency perineal urethrostomy was performed under a strict multimodal analgesia protocol utilizing carefully calculated medetomidine and ketamine. Postoperative care included early discharge to minimize psychological stress, alongside strict nighttime remote monitoring to ensure absolute pain control. The patient recovered well, highlighting our commitment to logical, empathetic, and definitive surgical care.

[中文]
一只6岁的雄性猫因严重的尿道阻塞、急性肾损伤(BUN >140mg/dL,CRE 10.16mg/dL)和致命的高钾血症(K 7.8mEq/L)就诊。由于导尿管疏通失败,在严格的多模式镇痛方案(精确计算右美托咪定和氯胺酮剂量)下紧急实施了会阴尿道造口术。术后护理包括为减轻心理压力而采取的尽早出院策略,以及严格的夜间远程监控以确保绝对的疼痛管理。患者恢复良好,彰显了我们致力于提供符合逻辑、充满同理心且彻底的外科治疗。