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短頭種の腫瘍外科で考えなくてはいけない気管の救命

フレンチブルドックの乳腺腫瘍手術は、「腫瘍をしっかり取ること」だけでなく「呼吸を安全に守ること」が同じくらい大切です。
特に短頭種気道症候群(BOAS)が疑われる・または呼吸器症状がある場合、麻酔中だけでなく麻酔から覚めるタイミング(覚醒期)に呼吸が不安定になりやすいため、術式の選択や術後管理の考え方をあらかじめ共有しておくことが重要です。

この記事でお伝えすること


乳腺腫瘍(左第5乳腺)に対する領域乳腺切除(第3〜第5乳腺切除)の考え方、費用の目安、短頭種気道症候群(BOAS)に伴う麻酔・術後の呼吸リスクと対策、悪化時の追加選択肢(気管切開・軟口蓋切除)について、飼い主さまが文献なしでも理解できるように省略せず整理します。

乳腺腫瘍(左第5乳腺)と、手術の目的

犬の乳腺腫瘍は良性のこともあれば、悪性(がん)であることも少なくありません。腫瘍が大きくなるほど、出血や潰瘍、感染、痛み、周囲への広がり(局所再発)や転移のリスクが上がることがあります。

  • 今回の目的:腫瘍をできるだけ確実に切除し、再発・転移のリスクを下げること
  • もうひとつの重要目的:短頭種に多い呼吸リスクを最小限にし、術後を安全に乗り切ること
  • そのために、手術範囲・麻酔計画・術後管理は当日の呼吸状態を含めて柔軟に判断します

予定している手術内容(領域乳腺切除)

左第5乳腺に腫瘍がある場合、腫瘍だけを部分的に取るのではなく、関連する乳腺をまとめて切除する領域乳腺切除が選択されることがあります。今回の計画は第3〜第5乳腺切除です。

  • 理由:取り残しを減らし、局所再発のリスクを下げるため
  • 皮膚を広く扱うため、術後は腫れ・皮下の液体貯留・創部の張りなどが起きることがあります
  • 短頭種では、術後の痛み・興奮が呼吸の負担につながるため、鎮痛・鎮静を含めた管理が重要です

避妊手術を同時に行う場合(卵巣のみ/卵巣+子宮)

乳腺腫瘍はホルモンの影響を受けることがあり、状況によっては避妊手術を同時に検討します。避妊手術には卵巣のみ切除と、卵巣+子宮切除の選択肢があります。

重要:
子宮まで一緒に切除する場合は、卵巣のみの切除よりも手術範囲が広くなり、術後の疼痛が強くなる可能性があります。
その結果、痛みによる興奮や呼吸数増加が起こりやすく、短頭種では呼吸へのリスクが増すことがあります。

当院では、当日の呼吸状態・全身状態・麻酔からの回復状況を総合して、卵巣のみで終了する今回は避妊手術を見送る段階的に分けて実施するなど、安全性を優先して判断する場合があります。

費用の目安(概算)

以下は目安の概算です。状態・検査内容・処置内容・入院日数により前後する場合があります。

  • 乳腺切除(第3〜第5乳腺切除):150,000円
  • 卵巣のみ切除:50,000円
  • 卵巣+子宮切除:80,000円
  • 点滴・入院管理:20,000円

合計の目安
乳腺切除+卵巣のみ切除:220,000円
乳腺切除+卵巣・子宮切除:250,000円

短頭種気道症候群(BOAS)とは

フレンチブルドックは鼻先が短い体の構造のため、空気の通り道(鼻〜喉)が狭くなりやすく、呼吸が苦しくなりやすい特徴があります。これを短頭種気道症候群(BOAS)と呼びます。

  • 普段からいびき・ガーガー呼吸・運動後の息切れ・暑さに弱いなどが見られることがあります
  • 麻酔中だけでなく、特に麻酔から覚める時期(覚醒期)に呼吸が不安定になりやすいのが特徴です
  • 術後の痛みや緊張、興奮は、呼吸を悪化させる引き金になることがあります

麻酔・術後に起こりうる呼吸の合併症

麻酔や手術では、一定のリスクがゼロにはなりません。短頭種では特に以下に注意が必要です。

  • 喉の奥(軟口蓋や周囲の組織)が腫れ、空気が通りにくくなる
  • 痛み・不安・興奮で呼吸数が増え、さらに呼吸が苦しくなる
  • 嘔吐や逆流が起きた場合の誤嚥(ごえん)性肺炎
  • まれに重度の呼吸障害や呼吸停止

当院での対策(酸素室・鎮静・術後管理)

呼吸器症状があるため、当院ではベトルファールなどを用いて緊張や興奮を抑えつつ、必要に応じて酸素室で管理しながら経過を見ます。
麻酔中は気道確保と厳重モニターを行い、術後は覚醒期の呼吸悪化を防ぐための看護を強化します。

術後の入院・退院方針(緊張を減らすため)

短頭種では入院環境での緊張や興奮が呼吸悪化の引き金になることがあります。
そのため当院では、全身状態と呼吸状態が安定していることを確認できた場合には、翌日退院として、ご自宅で安静に過ごしていただく方針です。
退院後は、痛み・不安・興奮を抑えて呼吸を安定させる目的でベトルファールを処方します。

ただし重要:
「翌日退院予定」はあくまで予定であり、短頭種の術後経過については予断はできません
状態によっては、鎮静が必要な時間が長くなる、入院延長が必要になる、追加の処置や治療が必要になるなど、計画を変更する場合があります。
当院は安全性を最優先に判断します。

呼吸が悪化した場合の追加の選択肢(状況が整う場合)

酸素室とベトルファール等で経過を見ますが、万一呼吸状態が急激に悪化した場合、かつ人員が揃っていて速やかに実施できる状況で見つけられた場合には、以下の選択肢を検討します。

  • 気管切開(緊急対応):100,000円
    喉の奥が腫れて空気が通らない場合に、首の気管に開口部を作り呼吸路を確保します。出血・感染・痰の詰まり・管理負担などの合併症が起こり得ます。
  • 軟口蓋切除:150,000円
    軟口蓋が長い/厚いことで呼吸抵抗が強い場合に、喉の奥の抵抗を減らすことを目的とします。術後の腫れ、出血、咳、誤嚥、術後数日の呼吸悪化などが起こり得ます。
  • 呼吸停止のリスク:短頭種では、麻酔・覚醒期・術後の興奮や腫れにより、まれに重篤な呼吸障害や呼吸停止が起こり得ます。

手術・麻酔に伴う一般的な合併症

すべての麻酔・手術には一定のリスクがあります。主なものは以下です。

  • 出血、感染、創部の腫れや痛み、皮下に液体がたまる(漿液腫など)
  • 嘔吐・逆流による誤嚥性肺炎
  • 短頭種では覚醒期の呼吸障害、喉頭周囲の腫れ
  • まれに重篤な合併症(呼吸停止など)

まとめ(大切なポイント)

  • 乳腺腫瘍は、早期切除と術後の評価(必要に応じた検討)が大切です
  • フレンチブルドックでは、BOASにより麻酔後の呼吸リスクが高いことを前提に対策します
  • 避妊手術は、卵巣のみ/卵巣+子宮で侵襲と疼痛が変わり、特に子宮まで行う場合は呼吸リスクが増す可能性があります
  • 術後は緊張を減らすため、状態が安定していれば翌日退院を目指します(ただし予断はできず、必要に応じて計画を変更します)
  • 悪化時には、状況が整う場合に限り、気管切開や軟口蓋切除を追加選択肢として検討します