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ワンちゃんの変形性脊椎症

ワンちゃんの「変形性脊椎症」について

ワンちゃんの背骨に起こる「変形性脊椎症(へんけいせいせきついしょう)」について、その原因からご家庭でのケア、そして専門的なお薬の話まで、一つひとつ丁寧にご説明します。

1. 「変形性脊椎症」って、どんな病気?

一言でいうと、「年齢を重ねることで背骨の骨が変形してしまう、一種の老化現象」です。

  • 背骨はたくさんの骨(椎骨:ついこつ)が連なってできていますが、加齢などが原因でこの骨のフチからトゲのようなもの(骨棘:こつきょく)が突き出てきて、隣の骨とつながって橋のようになってしまうことがあります。
  • 多くの場合、椎間板(背骨のクッション材)の老化と関係して起こると考えられています。
  • レントゲンを撮った時に偶然見つかることが非常に多い病気です。ある調査では、10歳以上のワンちゃんの3頭に1頭以上にこの変化が見られたという報告もあります。

2. どんな症状が出るの?

ほとんどの場合、症状はありません

  • レントゲンで骨の変形が見つかっても、ワンちゃん自身は全く気にしていないことがほとんどです。実際、飼い主様が「何かおかしい」と症状に気づいていたのは、全体のわずか7%だったという調査結果もあります。
  • しかし、一部のワンちゃんでは、以下のような症状が出ることがあります。
    • 背骨の動きが悪くなる、体を動かしにくそうにする。
    • 背中を触られるのを嫌がるなど、慢性的な痛みのサインを見せる。
  • 神経の症状(足のふらつき、麻痺など)が出ることは非常にまれです。骨のトゲは背骨の外側(横や下)に向かってできることが多いため、中にある大事な神経(脊髄:せきずい)を圧迫することはめったにありません。
  • ただし、ごくまれにトゲが神経の通り道を狭くしてしまい、神経を圧迫して症状を引きおこすこともあります。

【大切なこと】
もしワンちゃんに痛みや神経の症状が見られる場合、変形性脊椎症だけでなく、椎間板ヘルニアなど他の病気が隠れている可能性も考え、きちんと検査をして原因を特定することがとても重要です。

3. 治療はどのように進めるの?

治療の基本は、手術をしない「保存療法」が中心です。具体的には、「生活環境の見直し」と「お薬による痛みのコントロール」を組み合わせて行います。

① 生活環境の見直しと運動の修正

症状の悪化を防ぎ、ワンちゃんの快適な生活を守るための基本です。

  • 激しい運動は避けましょう:ジャンプや階段の上り下りは背骨に大きな負担をかけます。
  • 滑らない環境づくり:フローリングの床にはカーペットや滑り止めマットを敷いてあげましょう。
  • 段差をなくす:ソファなどに乗り降りする際は、スロープやステップを設置してあげると安心です。

② お薬による痛みのコントロール

背中に痛みが見られる場合、お薬を使って和らげてあげます。獣医師は症状のレベルに合わせてお薬を使い分けます。

A) まず初めに検討するお薬(NSAIDs:非ステロイド性抗炎症薬)

背中の痛みを和らげるための第一選択薬です。以下のいずれかを使用します。

  • ① カルプロフェン(商品名:リマダイルチュアブル錠)
    用量:体重1kgあたり4.4mgを、1日に1回、口から飲ませます。
  • ② メロキシカム(商品名:メタカムチュアブル)
    用量:
    ・初日のみ:体重1kgあたり0.2mgを、1日に1回、口から飲ませます。
    ・2日目以降:体重1kgあたり0.1mgを、1日に1回、口から飲ませます。
  • ③ フィロコキシブ(商品名:プレビコックス錠)
    用量:体重1kgあたり5mgを、1日に1回、口から飲ませます。
  • ④ ロベナコキシブ(商品名:オンシオール)
    用量:体重1kgあたり1mgを、1日に1回、口から飲ませます。
  • ⑤ マバコキシブ(商品名:トロコキシルチュアブル錠)
    長期間の痛み止めが必要な場合に選択されるお薬です。
    用量:体重1kgあたり2mgを、1ヶ月に1回、口から飲ませます(ただし、初回だけは2週間後にもう一度飲ませます)。

B) 痛みが強い場合や神経の痛みがある場合に使うお薬(鎮痛補助薬)

上記A)のお薬だけでは痛みが取り切れない時に追加したり、痛みがそれほど強くない場合に単独で使ったりします。

  • ⑥ ガバペンチン(商品名:ガバペンなど)
    用量:体重1kgあたり10mgを、1日に2〜3回、口から飲ませます。
  • ⑦ プレガバリン(商品名:リリカOD錠など)
    用量:体重1kgあたり2mgを、1日に2回、口から飲ませます。
    安全に長期間使いやすく、A)のお薬と併用することも可能です。

C) その他の治療

これらのお薬でも痛みが取れない場合、獣医師の判断でプレドニゾロン(ステロイド)を一時的に使うことがあります。また、電気やレーザーを当てる物理療法も痛みを和らげるのに役立つことがあります。

③ 神経を守るためのケア

神経に継続的な刺激が加わると、神経細胞が傷ついてしまうことがあります。これを防ぐ目的で、ビタミンB群抗酸化サプリメントが使われることがあります。

④ 手術について

この病気だけで手術が必要になることは、ほとんどありません
ただし、非常にまれですが、骨のトゲが神経を強く圧迫して麻痺などの症状が出ている場合には、その骨を削って神経の圧迫を取り除く手術(減圧術)を行うことがあります。

4. この先の見通しとご家庭での注意点

  • 見通し(予後)は良好です。多くの場合、お薬や生活環境の改善でうまく付き合っていくことができます。
  • もし治療への反応が悪い場合は、他の病気が隠れていないか、追加の詳しい検査が必要です。
  • ご家庭では、シニアのワンちゃんを抱き上げたり体を支えたりする際に、背骨に負担がかからないよう優しく扱ってあげてください

【最新情報】2020年以降の新しい治療の選択肢

上記の治療法に加えて、最近では新しい選択肢も出てきています。

  • 新しい痛み止めの注射薬(抗NGF抗体製剤)
    「リブレラ」という商品名で知られる、月1回の注射で痛みをコントロールする新しいタイプのお薬です。痛みの信号を元からブロックする働きがあり、特に変形性関節症のワンちゃんに使われますが、変形性脊椎症のような慢性的な痛みの管理にも応用されることが増えています。従来の飲み薬(NSAIDs)と比べて、腎臓や肝臓、胃腸への負担が少ないため、高齢のワンちゃんや持病がある子にも使いやすいのが大きなメリットです。
  • リハビリテーションの重要性
    水の浮力を使って足腰への負担を減らしながら筋肉を鍛える「水中トレッドミル」や、専門家によるマッサージ、鍼治療なども、痛みの緩和や運動機能の維持にとても効果的です。かかりつけの先生に、専門の施設を紹介してもらうのも良いでしょう。

この病気は、多くのシニア犬が経験する自然な変化です。大切なのは、もし痛みなどのサインが見られた時に、ワンちゃんが快適に過ごせるように適切にサポートしてあげることです。何か気になることがあれば、いつでもかかりつけの動物病院にご相談ください。