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今こそ「脱ステロイド」:ステロイドを選択すべき場面と、皮膚科での“外用最適化”の実装
対象:獣医師(犬猫臨床)/文献を手元に置かずに理解・実装できるように、用量・手順・注意点を省略せずに整理
結論:皮膚科領域の“脱ステロイド”は「ステロイドを否定する」ことではなく、必要な場面で、適正な薬剤・用量・期間・塗布量で使い、外用と他の手段で総ステロイド量を減らすことです。
このページで扱うこと
(臨床で迷いやすいポイントを“数値”と“手順”に落とす)
特に重要:
外用ステロイドの強度(ポテンシー)・基剤・塗布量(FTU)・塗り方を最適化すると、全身投与(内服・注射)を長引かせずに済むケースが増えます。
ここでいう“脱ステロイド”は、ステロイド薬を否定する思想ではありません。皮膚科領域における現実的な目標は、
「必要な場面で、適正な薬剤・用量・期間・塗布量で使い、副作用を最小化しながら、外用最適化と他の選択肢(局所療法・免疫調整薬・抗感染管理・維持戦略)を組み合わせて、総ステロイド量を減らす」
という運用です。
皮膚科では、全身ステロイドを「長く使い続ける」よりも、外用ステロイドの最適化で病勢を落とせる割合が想像以上に多い一方、
「塗っているつもりでも塗布量が足りない」「こすって刺激になっている」「基剤が合っていない」「有毛部で届いていない」などが原因で、
結果的に内服へ依存してしまうケースも少なくありません。
ポイント:
全身ステロイドは「導入(リセット)」として有用ですが、皮膚科では長期内服を前提にしない設計が重要です。
目標は最短で病勢を落とし、最速で減量し、外用最適化と維持手段へつなぐことです。
逆に、漫然とした長期内服は避けます。副作用(多飲多尿、食欲亢進、易感染、皮膚菲薄化、肝酵素上昇など)のリスクは用量・期間に比例しやすく、
皮膚科では外用の最適化を強く意識することで、全身投与の期間を短縮できることが多いからです。
犬アトピー性皮膚炎で全身ステロイドを使う場合の基本レンジとして、プレドニゾロン 0.5〜1 mg/kg 1日1回(SID)が目安になります。
症状が強いほど上側を選びますが、重要なのは“効かせたら減らす”を最初から設計に入れることです。
運用の目安(例)
・導入:0.5〜1 mg/kg SID(症状が強いほど上側)
・反応確認:3〜7日で掻痒・紅斑・浸出・掻破の変化を評価
・減量:可能なら早期に投与間隔を延ばす/用量を落とす(隔日投与などを視野)
・“脱ステロイド”の接続:外用の最適化(強度×基剤×塗布量×塗り方)と、維持手段(後述)へ切り替える
なお、累積量の安全運用の目安として「年間許容量 33 mg/kg/year」という考え方が提示されることがあります。
これは現場での“目安”としては便利ですが、個体差(代謝、感染素因、併用薬、基礎疾患)で安全域は揺れます。
累積量だけで安全を保証せず、臨床症状とモニタリング(飲水尿量、体重、易感染、肝酵素など)とセットで扱います。
免疫介在性皮膚疾患では、アトピー性皮膚炎のような「短期の鎮痒目的」と違い、導入期により強い免疫抑制が必要になることがあります。
代表例として落葉状天疱瘡では、導入としてプレドニゾロン 2 mg/kg SIDを超える用量が必要になるケースがあり、
期待反応が得られるまで安易に減量しないことがポイントになります。
追加の考え方(臨床の現実)
・ステロイド単独で押し切るより、症例によっては併用療法を早めに検討し、ステロイド総量を下げる設計が現実的なことがあります。
・ただし併用薬は効果発現のタイムラグや副作用(感染、骨髄抑制など)を前提に、計画的なモニタリングが必要です。
皮膚科治療を“脱ステロイド”の方向に進めるうえで、最も効くのは外用の最適化です。
外用がうまく回り始めると、全身投与の期間が短くなるだけでなく、再燃の波が小さくなることが増えます。
目安として、軽症〜中等症〜重症で強度を段階的に考えます。ただし顔・陰部・腋窩など皮膚の薄い部位や長期使用では、
皮膚菲薄化などのリスクを意識し、強い薬を短期で適量 → 速やかに弱める/回数を減らす発想が基本になります。
よく使用されるステロイド外用薬(例)
・ストロンゲスト:デルモベート(クロベタゾールプロピオン酸エステル)、ダイアコート(ジフロラゾン酢酸エステル)
・ベリーストロング:コルタバンス(ヒドロコルチゾン酢酸エステル:HCAスプレー)、フルメタ(モメタゾンフランカルボン酸エステル)、マイザー(ジフルプレドナート)
・ストロング:リンデロンV(ベタメタゾン吉草酸エステル)、フルコート(フルオシノロンアセトニド)
・マイルド:レダコート(トリアムシノロンアセトニド)、ロコイド(ヒドロコルチゾン酪酸エステル)
・ウィーク:プレドニゾロン(プレドニゾロン)
基剤の目安
・軟膏(油性):保護作用が強い一方、使用感が悪く、蒸れやすい/ベタつきが不満になりやすい
・クリーム(水と油):透過性が高く、ベタつきが少ない/保護作用は軟膏より弱い
・ローション・スプレー(水性寄り):有毛部に使いやすく、使用ハードルが低い一方、刺激性が出ることがあり、使用量が不足しやすい
・その他:ゲル、散剤、スプレー剤、貼付剤など、部位・病変・オーナーの扱いやすさで選ぶ
実際には「病変に合う基剤」と「飼い主が続けられる使用感」を両立させることが最重要です。
続かない基剤は、理論上正しくても治療効果が出ません。
外用で成果が出ない理由で多いのが、塗布量不足です。そこでFTU(Finger Tip Unit)を使って塗布量を“見える化”します。
FTUの基準
・口径5mmのチューブで、成人の指先〜第一関節まで押し出した量を1FTUとする
・1FTU ≒ 0.5 g
・1FTUで“手のひら2枚分”の面積に塗布
・例:病変が手のひら8枚分 → 4FTU(= 約2 g)/回
・これを1日2回で1週間 → 2 g × 2回 × 7日 = 28 g/週(想像より減って当然)
「薬が全然減らない」場合は、塗布量が足りていない可能性があります。
外用は“薄く”ではなく“適量”です。適量であって初めて、外用で病勢を落とし、全身投与を短期で終わらせる設計が成立します。
ローションは特に使用量が不足しやすい剤形です。そこでワンコインユニットのような見た目の指標を併用すると、
飼い主の再現性が上がり、効果も安定します(軟膏・クリームはFTU、ローションは見た目指標を追加、という運用が現実的です)。
外用のコツ(現場で効くやり方)
・人差し指だけでゴリゴリ塗るのは刺激になりやすい
・広い面積は、数カ所に薬を“置く” → 手のひら全体で押し当てて、やさしく伸ばす(擦らない)
・塗布後、薬効が出るまで時間がかかることがあるため、しばらくは舐めない工夫をする(時間帯や行動とセットにする)
・「塗る」=「擦り込む」ではなく、「皮膚に載せて均一に伸ばす」
いったん寛解(症状が落ち着いた状態)を作った後、「薬を完全にやめる」と再燃を繰り返し、結果的に全身投与へ戻ることがあります。
そこで有効なのがプロアクティブ療法です。これは寛解後に、外用ステロイド(例:HCAスプレーなど)を週2回などの間欠で継続し、
再燃を遅らせる運用です。
プロアクティブ療法の考え方
・毎日塗布で寛解を作る
・その後、週2回などの間欠塗布に移行して維持する
・結果として、再燃までの期間が延び、全身投与の出番が減ることがある
・“塗る量(FTU)”と“塗り方”を守ると成功率が上がる
局所注射は、病変に直接作用させる強力な方法ですが、適応選択と安全運用が不可欠です。
非感染性炎症性病変などで選択されることがあります。
具体量(例)
・トリアムシノロン製剤 40 mg/mL(例:ケナコルトA)
・0.025〜0.05 mL を病変内に注入
・安全性に配慮し、1回の処置で2カ所まで、2カ月おきなど頻度を制限して運用する
重要なのは、局所注射を選ぶ前に感染の除外を意識すること、そして局所萎縮・潰瘍化・全身影響の可能性を踏まえた説明と計画的運用です。