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余命宣告から2年3ヶ月。腹膜播種からの長期寛解と、穏やかな最期までの記録

深刻な宣告から驚異的な回復を見せ、晩年は内分泌疾患と闘いながら最後まで生き抜いた尊い記録


13歳で初診を迎えた患者さん(初診時体重約8kg)の、約2年3ヶ月にわたる治療の軌跡をまとめました。個人情報を伏せ、専門的な見地から論理的に解説いたします。

初診と「放置」のリスク

健康診断を主訴に来院された13歳の患者さんに対し、画像診断等を実施したところ、脾臓(ひぞう)の腫瘤、左右卵巣の著明な変異、および腹水の貯留が確認されました。

外科医として、この段階で「様子を見る(放置する)」という選択肢がもたらす将来の苦痛を、明確に提示しなければなりませんでした。

  • 脾臓破裂による大出血:腫瘍化した脾臓は非常に脆く、破裂すれば腹腔内で大出血を起こし、激痛と血圧低下により、数時間で命を落とす危険があります。
  • 癌性腹膜炎と呼吸困難:放置すれば、癌から染み出す液体(腹水)が溜まり続け、横隔膜を圧迫して息を吸うことさえ困難な苦しみを味わうことになります。

これらの具体的な苦痛を回避し、残された時間の質を確保するため、私たちは緊急手術を選択しました。

手術の論理的根拠と麻酔管理

実施された術式は、脾臓摘出術、卵巣子宮摘出術、および大網(だいもう)切除術です。

  • 脾臓摘出:突然死を招く破裂リスクを完全に取り除くためです。
  • 卵巣子宮摘出:腫瘍の原発巣(発生源)を摘出し、癌細胞の供給を断つために行います。
  • 大網切除:胃に付着する膜である大網に癌が多発していたため、これを取り除くことで腹水の産生を抑え、お腹の張りを軽減させる「減容積(デバルキング)」を目的としました。

【周術期管理と痛みのケア】

  • 鎮痛プロトコル:高齢かつ複雑な手術であるため、痛みを最小限に抑える「マルチモーダル鎮痛」を徹底しました。作用機序の異なる鎮痛薬を組み合わせることで、脳に伝わる痛みの信号を多角的にブロックしました。
  • 組織への低侵襲:血管の処理にはシーリングシステムを使用し、出血と手術時間を最小限に抑えています。

【想定される合併症】

  • 術後イレウス(腸閉塞):癌が腹腔内に散らばっているため、術後に腸の動きが止まるリスクがあります。
  • 膵炎(すいえん):大網切除時、隣接する膵臓に炎症が波及する恐れがあるため、厳密なモニタリングが必要です。

病理診断と「予後不良」の告知

摘出した組織の病理検査により、診断は「卵巣腺癌(らんそうせんがん)」と確定しました。脾臓の表面や大網の病変は、この癌がお腹の中に種をまくように散らばる「腹膜播種(ふくまくはしゅ)」による転移と推察されました。医学的なデータ上、この状態は「予後不良」とされます。

【病気の説明:卵巣腺癌と腹膜播種】
卵巣から発生した悪性腫瘍(癌)です。癌細胞が卵巣の表面からこぼれ落ち、腹膜や各臓器に散らばって増殖する状態を「腹膜播種」と呼びます。非常に進行が早く、治療が困難な状態の指標となります。

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奇跡的な完全寛解(CR)と内分泌管理

癌の宣告から約1年3ヶ月が経過した時点で、画像検査において癌の再発が認められない「完全寛解(CR)」の状態を1年以上維持していました。播種を伴う進行癌において、ここまでの長期寛解は極めて稀な例と言えます。

その後、癌に代わって治療の主眼となったのが、内分泌疾患である「副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)」でした。

【病気の説明:副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)】
腎臓の隣にある「副腎」という小さな臓器から、コルチゾール(ステロイドホルモン)が過剰に分泌されてしまう病気です。

病態とリスク:ホルモンバランスが崩れることで、多飲多尿(水を多く飲み尿が増える)、お腹の膨張、免疫力の低下などが起こります。放置すると糖尿病や重篤な膵炎、血栓症などの合併症を引き起こし、全身状態を急激に悪化させるリスクがあります。

管理:生涯にわたりお薬(アドレスタン等)でホルモン数値を調整し、合併症を防ぐ必要があります。

投薬量は定期的な血液検査(ACTH刺激試験)に基づいて微調整され、ご家族による厳密な管理が行われました。

晩期のサポートと穏やかな最期

初診から約2年が経過した頃、舌や腹部に新たなしこりが発生しましたが、これらも手術によって適切に処置され、良性であることが確認されました。

しかし、15歳を迎える頃、病状は終末期へと向かいました。

  • 病状の推移:進行する貧血(ヘマトクリット値20未満)、低体温(37.4℃)、および食欲廃絶が認められました。
  • 終末期ケア:苦痛を取り除くためのサポートケア(皮下点滴、鎮痛、強制給餌)が、ご家族と病院の連携によって連日実施されました。

最終的に、この患者さんはご家族が見守る中、第817病日の午後に静かに旅立たれました。最期の体重は3.75kgでした。

絶望的な状況から始まりながら、約817日間を生き抜いた事実は、論理的な外科的介入と、それを支え続けたご家族の誠実な覚悟の賜物と言えます。


Summary (English)

This report details the 2-year and 3-month treatment journey of a 13-year-old canine patient initially presenting with ascites, an ovarian tumor, and a splenic mass. An emergency surgery comprising a splenectomy, ovariohysterectomy, and omentectomy was performed to prevent imminent splenic rupture and relieve respiratory distress caused by cancerous peritonitis. The pathology confirmed ovarian adenocarcinoma with peritoneal dissemination, a condition generally carrying a grave prognosis.

Remarkably, the patient achieved a complete remission (CR) for over a year following the surgery. The focus of treatment subsequently shifted to managing hyperadrenocorticism (Cushing’s syndrome), requiring rigorous medical management to prevent severe complications such as pancreatitis and immunosuppression.

The patient survived for 817 days after the initial diagnosis, eventually passing away peacefully with her family. This case highlights how logical surgical intervention, combined with the dedicated care of the family, can provide significant quality time even in the face of a severe prognosis.

摘要 (中文)

本报告详细记录了一只13岁患犬长达2年3个月的治疗历程。该患犬初诊时确诊为腹水、卵巢肿瘤及脾脏肿块。为防止脾脏破裂及缓解癌性腹膜炎导致的呼吸困难,我们紧急实施了脾脏切除术、卵巢子宫切除术及大网膜切除术。病理结果确诊为卵巢腺癌伴腹膜播散,预后极差。

然而,患犬在术后表现出惊人的生命力,实现了长达一年以上的完全缓解(CR)。此后,治疗重点转向内分泌疾病——肾上腺皮质机能亢进(库兴氏综合征),通过严格的内科药物管理,成功预防了胰腺炎和免疫力低下等严重并发症。

最终,该患犬在确诊后存活了817天,在家人的陪伴下安详离世。该病例证明,合理的基于逻辑的外科干预加上家人悉心的照料,即使面对极其严峻的预后,也能为患宠争取到高质量的生存时间。