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僧帽弁閉鎖不全






【獣医師監修】ワンちゃんの僧帽弁閉鎖不全症|ステージごとの治療法を徹底解説

ワンちゃんの僧帽弁閉鎖不全症について

ワンちゃんの心臓にある「僧帽弁(そうぼうべん)」という扉が、年齢とともにうまく閉じなくなり、血液が逆流してしまう病気です。これが「僧帽弁閉鎖不全症」です。

獣医さんは、この病気の進行度を「ステージ」という言葉で分類し、そのステージに合った最適な治療法を考えます。心臓に雑音があるからといって、すぐに薬が始まるわけではないのが大きなポイントです。

治療を始める前の大切な検査

まず、ワンちゃんがどのステージにいるのかを正確に知るために、いくつかの検査を行います。

  • 聴診: 獣医さんが聴診器で心臓の音を聞き、「ザーザー」というような雑音がないか確認します。
  • X線検査(レントゲン): 心臓が大きくなっていないか(心拡大)、肺に水が溜まっていないか(肺水腫)を確認します。心臓の大きさを測る「VHS(椎骨心臓スコア)」という指標を使います。
  • 心エコー図検査(心臓の超音波検査): 心臓の動き、弁の状態、血液の逆流の程度を詳しく見ます。ここでは「LA/Ao比」や「LVIDDN」といった指標で心臓の大きさを評価します。

これらの検査結果を総合して、病気のステージを決定します。


ステージごとの詳しい説明と治療法

ステージA および ステージB1

ステージA: 今は病気ではないけれど、将来的にこの病気になりやすい犬種(キャバリア、チワワ、マルチーズなど)が分類されます。

ステージB1: 心臓に雑音はありますが、X線やエコー検査では心臓の大きさがまだ正常範囲内の段階です。


【この段階での治療】

  • お薬はまだ使いません。 この段階で薬を始めても、病気の進行を遅らせる効果が証明されていないためです。
  • ただし、病気はゆっくり進行する可能性があるので、定期的な検診(半年~1年に1回)で心臓の大きさをチェックしていくことがとても大切です。

ステージB2:心臓が大きくなってきた段階

心臓の雑音に加えて、検査で明らかな心臓の拡大が認められる段階です。ただし、ワンちゃん自身はまだ咳や息切れなどの症状を見せていない状態です。

診断の目安(専門的な基準):

  • X線検査でのVHS値が 10.5 を超える
  • 心エコー検査でのLA/Ao比が 1.6 を超える
  • 心エコー検査でのLVIDDnが 1.7 を超える
  • (これら3つをすべて満たす、または心エコーがなくてもVHS値が11.5を超えるとB2と診断されます)

【この段階での治療】

このステージから、お薬による治療が始まります

ピモベンダン(商品名:ベトメディン®など)
心臓の筋肉が収縮する力を強め、血管を広げて心臓の負担を軽くするお薬です。この段階で飲み始めることで、肺に水が溜まる「心不全」の状態になるのを遅らせることができます。
用量: 体重1kgあたり 0.2~0.3 mg を、1日2回、経口投与します。

その他: 咳がある場合、気管支を広げるお薬や、ACE阻害薬という血管を広げるお薬が使われることもあります。専門の施設では、この段階で心臓の弁を修復する外科手術も選択肢の一つになります。

ステージC:うっ血性心不全(肺に水が溜まった段階)

病気が進行し、心臓のポンプ機能が追いつかなくなり、肺に水が溜まってしまう状態(肺水腫)です。呼吸が速い・苦しそう、咳がひどい、などの症状が見られます。命に関わる緊急事態です。


① 緊急入院での治療(急性期)
目的は、肺に溜まった水を抜き、呼吸を楽にさせ、心臓の働きを助けることです。

  • 酸素吸入: 苦しい呼吸を助けます。
  • フロセミド(利尿薬、商品名:ラシックス®など)の注射: おしっこをたくさん出させて、肺の水を抜きます。
    用量: 体重1kgあたり 2 mg を筋肉注射、または 0.7 mg/kg/時 の速さで点滴します。
  • ピモベンダン(商品名:ベトメディン®など)の注射: 心臓の動きを強力にサポートします。
    用量: 体重1kgあたり 0.15 mg を静脈注射します。
  • 点滴治療: 状態が非常に悪い場合は、心臓を助けるドブタミン(用量: 2.5~10 µg/kg/分)や、血管を広げるニトロプルシド(用量: 1~15 µg/kg/分)といったお薬を点滴で使い、厳重な管理を行います。

② 自宅での治療(慢性期)
状態が安定して退院した後の、生涯にわたるお薬での管理です。腎臓の数値を定期的にチェックしながら、量を調整します。

  • ピモベンダン: 継続します。
  • 利尿薬(おしっこを出す薬): 肺に再び水が溜まるのを防ぎます。
    • フロセミド(商品名:ラシックス®錠): 体重1kgあたり 2 mg を1日2回から開始し、状態に応じて1日あたり1~8 mg/kgの範囲で調整します。
    • トラセミド(商品名:ルプラック®錠): 体重1kgあたり 0.1 mg を1日1回から開始し、最大で0.8 mg/kg/日まで調整します。
  • スピロノラクトン(商品名:アルダクトン®A錠): 利尿作用を助け、心臓への負担を和らげる働きも期待されるお薬です。
    用量: 体重1kgあたり 2 mg を1日1回、経口投与します。
  • ACE阻害薬(商品名:アピナック®錠など): 血管を広げて心臓の負担を軽くするお薬です。
    用量: 体重1kgあたり 1~3 mg を1日1回、経口投与します。

ステージD:治療に反応しにくい難治性の心不全

ステージCの標準的な治療を行っても、肺水腫を繰り返してしまう最も進行した段階です。治療は非常に難しくなりますが、使えるお薬を組み合わせて、少しでも楽に過ごせるように調整していきます。


【この段階で追加を検討する治療】

  • 利尿薬のさらなる増量や追加: 腎臓の機能が許す限り、フロセミドやトラセミドの量を増やします。さらに、ヒドロクロロチアジド(用量: 2 mg/kgを1日2回)という別の種類の利尿薬を追加することもあります。
  • ピモベンダンの増量: 1日2回の投与を、1日3回に増やすことを検討します(ただし、これは通常の用法とは異なる使い方です)。
  • 血管を広げる薬の追加: 血圧に問題がなければ、アムロジピン(用量: 0.05~0.5 mg/kgを1日1~2回)を追加して、心臓の負担をさらに軽減します。
  • 肺高血圧症の治療薬: 失神などの症状がある場合、肺の血管を広げるシルデナフィル(商品名:バイアグラ®など。用量: 0.5~2 mg/kgを1日2回)を追加することがあります。

咳や不整脈などの合併症に対するお薬

  • ひどい咳に対して:
    ブトルファノール(商品名:ベトルファール®注など): 咳を強力に抑えるお薬。特に夜間の咳で眠れない時に使います。
    用量: 体重1kgあたり 0.2 mg を基準に調整(0.05~1 mg/kg)し、シロップなどに混ぜて飲ませます。
  • 心房細動(不整脈の一種)に対して:
    • ジルチアゼム(商品名:ヘルベッサー®): 用量: 0.5~2 mg/kgを8時間ごと。
    • ジゴキシン(商品名:ジゴシン®): 用量: 0.005~0.0075 mg/kgを1日2回。

この病気の予後(これからどのくらい頑張れるか)

  • ステージB2でピモベンダンを始めたワンちゃんが、心不全を発症するまでの期間は、中央値で1,228日(約3年4ヶ月)と報告されています。
  • ステージCと診断され治療を始めたワンちゃんの生存期間は、中央値で267日(約9ヶ月)と報告されています。
  • 進行したステージCで、たくさんの利尿薬を必要としたワンちゃんは、そうでないワンちゃんに比べて、生存期間が長かったという報告もあります。これは、積極的に治療を行うことの重要性を示唆しています。

【最新情報】2020年以降の新しい動向

  1. 新しい利尿薬「トラセミド」の評価
    資料にも記載がありますが、トラセミド(ルプラック®)の評価がさらに高まっています。フロセミドよりも効果が安定しており、心不全のコントロールにおいて、より良い結果をもたらす可能性があるという研究報告が増えています。
  2. 新薬への期待「SGLT2阻害薬」
    もともと人の糖尿病治療薬ですが、心臓を保護する効果が非常に高いことが分かり、心不全治療薬としても使われています。現在、犬での効果を確かめる研究が世界中で進められており、将来、心不全治療の新たな柱になる可能性を秘めています。
  3. 外科手術(僧帽弁形成術)の進歩
    弁を修復する手術の技術は年々向上しており、専門施設での成功率は非常に高くなっています。内科治療よりも長く元気に過ごせる可能性があり、特に若いワンちゃんにとっては大きな希望となる治療法です。ただし、非常に高度な専門性と高額な費用がかかります。

最後に、飼い主様へ


ここまで非常に専門的で多くの情報をお伝えしましたが、最も大切なことは、ワンちゃん一人ひとりの状態に合わせて治療を調整していくことです。お薬の量や種類は、体重だけでなく、腎臓の機能、血圧、他の病気の有無など、様々なことを考慮して獣医さんが決定します。

不安なことや分からないことは、どんな些細なことでも、かかりつけの獣医さんにご相談ください。ワンちゃんが少しでも長く、楽に、そして楽しく過ごせるよう、一緒に頑張っていきましょう。