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免疫介在性眼瞼炎






■■ はじめに:この病気はどのようなものですか? ■■

まず、ワンちゃんのまぶたが炎症を起こすことを「眼瞼炎(がんけんえん)」と言います。その原因は様々ですが、今回ご説明する「免疫介在性(めんえきかいざいせい)眼瞼炎」は、体を異物から守るための「免疫」システムが、何らかの異常によって自分自身の正常なまぶたの組織を「敵」と誤認し、攻撃してしまうことで発症する病気です。

この病気は、まぶただけに症状が出る場合と、皮膚、口の粘膜、爪の根元、唇、耳、肉球など、全身に症状が広がる場合があります。

まぶたが炎症を起こすと、目の表面を保護する涙の膜(涙液膜)を正常に作れなくなります。その結果、二次的に角膜炎(黒目の炎症)、角膜上皮びらん(黒目の表面の浅い傷)、角膜潰瘍(黒目がえぐれてしまう深い傷)、膿性眼脂(膿のようなドロっとした目やに)といった、他の目のトラブルも併発してしまいます。

【ポイント】代表的なタイプは3つあります

◆ 1. 内眼角の潰瘍性眼瞼炎(ないがんかくのかいようせいがんけんえん)

目頭(内眼角)の皮膚に、ただれや潰瘍(組織が深くえぐれた状態)ができてしまう病気です。

  • かかりやすい犬種: ジャーマン・シェパード・ドッグ、ロングヘアのダックスフンド
  • 併発しやすい病気: 慢性表層性角膜炎、点状表層性角膜炎など
  • 診断: ただれた部分の皮膚を少量採取して調べる生検で確定します。

◆ 2. ぶどう膜・皮膚症候群

体の色を作る「メラノサイト」という細胞を、免疫システムが攻撃してしまう病気です。

  • 主な症状: 両目に重度のぶどう膜炎が起こり、まぶたや鼻の色が白く抜けます。
  • かかりやすい犬種: 秋田犬、シベリアン・ハスキー、サモエドなど
  • 診断: 主に犬種と特徴的な症状から診断されます。

◆ 3. 天疱瘡(てんぽうそう)

皮膚の細胞同士を繋ぐ接着剤のような部分が、免疫に壊されてしまう病気です。

  • 主な症状: 皮膚やまぶたに水ぶくれ、ただれ、かさぶたができます。
  • 診断: 水ぶくれの中の液体や、生検で診断します。

■■ 治療の基本的な考え方と方針 ■■

原因が「免疫の異常」であるため、治療の主役は、過剰に働いている免疫の力を抑える「免疫抑制治療」です。

これは皮膚の病気に準じて考え、飲み薬による全身投与を中心に行います。長期にわたる投薬が必要なため、副作用(肝機能障害や骨髄抑制など)がないか、定期的な血液検査でしっかり評価しながら治療を進めることが極めて重要です。

また、二次的な細菌感染を防ぐための抗菌薬や、角膜を守るための目薬も併用します。

■■ 疾患別の詳細な治療プラン(処方例) ■■

◆ 1. 「内眼角の潰瘍性眼瞼炎」の治療プラン

【まぶたへの治療】

  • 中心となる免疫抑制薬(飲み薬)

    • プレドニゾロン(ステロイド剤)
      用法・用量: 1日に体重1kgあたり1〜2mgから開始し、段階的に減量します。
  • 症状が重い場合に追加する免疫抑制薬(飲み薬)

    • シクロスポリン(商品名:アトピカ®)
      用法・用量: 1日に体重1kgあたり7〜10mgを1回投与します。
    • アザチオプリン(商品名:イムラン®錠)
      用法・用量: 1日に体重1kgあたり2mgを1回投与します。
  • 二次感染を防ぐ抗菌薬(飲み薬)

    • セファレキシン、オルビフロキサシンなど

【角膜(黒目)への治療】

  • 免疫を抑える目薬: フルオロメトロン、ベタメタゾンなど
  • 抗菌薬の目薬: オフロキサシンなど
  • 角膜を保護する目薬: 精製ヒアルロン酸ナトリウム

◆ 2. 「ぶどう膜・皮膚症候群」の治療プラン

【全身への治療(飲み薬)】

  • プレドニゾロンを中心に、効果が不十分な場合はシクロスポリンやアザチオプリンを併用します。

【目への専門的な治療】

  • ぶどう膜炎に対して: 免疫抑制や抗菌薬の目薬
  • 角膜保護: 精製ヒアルロン酸ナトリウムの目薬
  • 緑内障に対して: ドルゾラミド塩酸塩、ニプラジロールなどの目薬

【特に重要な注意点】

ぶどう膜炎がある時に「プロスタグランジン製剤」という種類の
緑内障の目薬を使うと、出血や癒着の危険があるため、
絶対に【使用できません】。

◆ 3. 「天疱瘡」の治療プラン

  • 治療の主体は皮膚疾患に対して行い、目には二次的な角膜障害の治療を行います。
  • 飲み薬は「ぶどう膜・皮膚症候群」と同様に、プレドニゾロンなどを中心に使用します。
  • 目薬は、角膜保護と二次感染予防のために使用します。

■■ 今後の見通し(予後)について ■■

この病気の予後は、治療への反応性によって大きく異なります。治療の反応が悪いと、角膜が濁ったり、最悪の場合、角膜に穴が開く角膜穿孔に至ることもあります。

特に「ぶどう膜・皮膚症候群」では、重度のぶどう膜炎や続発緑内障が原因で、視覚を失うことが多いとされています。

■■ 看護における大切なポイント ■■

  • 温めるケア: 温かいタオルで目を優しく温める際は、力をかけすぎないでください。
  • 短頭種の注意点: パグなどは、保定時に呼吸に負担がかかりやすいため注意が必要です。
  • エリザベスカラーの装着: 目をこすって悪化させないよう、早めに装着しましょう。
【免責事項】
この記事は、飼い主様への情報提供を目的としたものであり、特定の治療法を推奨するものではありません。ワンちゃんの診断・治療については、必ずかかりつけの動物病院にご相談ください。