犬と猫の心臓病ガイド:食事療法と日常のケア
大切な家族であるワンちゃん・ネコちゃんが「心臓病」と診断されたら、飼い主様は不安でいっぱいになりますよね。でも、適切なケアと知識があれば、病気と上手に向き合い、穏やかな毎日を過ごすことができます。この記事では、心臓病の基本から、治療の鍵となる食事管理、ご家庭でできるケアまで、分かりやすく解説します。
1. 心臓病って、どんな病気?
心臓の働きと病気の原因
心臓は、血液を全身に送り出す「ポンプ」の役割をしています。このポンプが働くには、以下の4つがすべて正常に機能する必要があります。
- 心臓の筋肉(心筋)
- 血液の逆流を防ぐ弁
- 正しいリズム
- 血液が通る血管
心臓の各機能と異常が出た時の症状
- 心臓の筋肉(心筋)
役割: 血液を全身に送り出すための力強いポンプです。
異常時: ポンプ機能が低下し、疲れやすくなる、呼吸が苦しくなるといった心不全の症状が出ます。 - 血液の逆流を防ぐ弁
役割: 血液が一方通行に流れるように制御する扉です。
異常時: 血液が逆流し(弁膜症)、心臓に負担が増大します。聴診で「心雑音」として確認でき、進行すると咳や運動を嫌がるようになります。 - 正しいリズム
役割: 心臓全体が効率よく収縮するための電気信号です。
異常時: リズムが乱れると「不整脈」となり、めまいや失神、突然倒れるといった症状を引き起こすことがあります。 - 血液が通る血管
役割: 心臓から送り出された血液が通る道です。
異常時: 「高血圧」になり、心臓が常に強い力で血液を送る必要があり、心筋が疲弊して心不全の原因となります。
2. 気づいてあげたい心臓病のサイン

心臓病が進行すると、次のような症状が見られるようになります。
- 咳をする(特に夜中や朝方、興奮した時に「ゴホッ、ゴホッ」という乾いた咳が出やすいです)
- 疲れやすく、あまり運動したがらない
- 呼吸が速い、息切れする
- お腹が膨らんできた(腹水)
- 失神することがある
- 食欲が落ちて、痩せてきた
実は、これらの症状がはっきりと現れた時には、病気はかなり進行してしまっています。初期の心臓病は症状がほとんどありません。だからこそ、症状がなくても定期的な健康診断で早期発見することが非常に重要です。
3. 心臓病の進行ステージ
心臓病は、残念ながら治る病気ではなく、少しずつ進行していきます。その進行度合いは、国際的な基準(ACVIMガイドライン)に基づいてステージ分けされます。治療やお食事の管理は、このステージに合わせて行います。
| ステージ | 説明 |
|---|---|
| ステージA | 今は心臓に異常はないけれど、将来心臓病になりやすい犬種などが分類されます。定期検診が大切です。 |
| ステージB | 聴診で心臓に雑音が見つかりますが、咳などの症状はまだ出ていない状態です。
|
| ステージC | 咳や呼吸困難など、心不全の症状が実際に現れている状態です。多くの場合、お薬(利尿剤など)による治療が必要になります。 |
| ステージD | 末期の状態で、標準的な治療では症状のコントロールが難しくなった段階です。 |
4. 「食事管理」が治療になる理由
お薬ももちろん大切ですが、心臓病の治療において食事管理は欠かせない柱です。
栄養素が心臓病に与える影響(筋肉の維持)
- サイトカインの影響: 心臓病になると、体内で「サイトカイン」という炎症物質が増加します。このサイトカインは、体のエネルギー源として脂肪よりも筋肉を優先的に分解させてしまいます。その結果、食事を摂っていても筋肉がどんどん落ちて痩せてしまう「心悪液質(しんあくえきしつ)」という状態になります。
- EPA・DHAの役割: 魚油に含まれる「EPA・DHA」は、このサイトカインの産生を抑える働きがあります。EPA・DHAをしっかり摂ることで、筋肉の分解が抑制され、筋肉量を維持しやすくなります。
食事療法は「早い段階」から!
一番大切なのは、食欲が落ちてしまう前に食事療法を始めることです。症状が進行して食欲がなくなってから新しいごはんに切り替えるのは、非常に難しくなってしまいます。
5. 食事プランのご提案(犬用)
ワンちゃんのステージや併発している病気によって、最適なお食事は異なります。その子に一番合ったものを選んでいきましょう。

ステージB(症状はないが、心雑音や心拡大がある段階)
利尿剤などのお薬がまだ必要ないこの時期は、「過剰なナトリウム摂取を避ける」ことが目標です。
- ロイヤルカナン 早期心臓サポート+関節サポート: 心臓だけでなく、シニア犬に多い関節の健康にも配慮したお食事です。
- ドクターズケア ハートケア: 心臓の健康維持のためにナトリウムとリンが調整されており、初期の腎臓病にも配慮できます。
- ヒルズ ダーム ディフェンス: 本来は皮膚ケア用ですが、心臓ケアにも配慮されています。アレルギーなどで皮膚トラブルも抱えている子に。
ステージC~D(利尿剤を使い始めた段階)
利尿剤が必要になったら、「より厳しいナトリウム制限」が必要です。食事を切り替えるタイミングは、まさに「利尿剤を使い始めるかどうか」です。
- ロイヤルカナン 心臓サポート: うっ血性心不全など、進行した心臓病に配慮して、ナトリウム量を制限しています。
- ドクターズケア ハートケア: こちらもナトリウムがしっかり制限されているので、進行したステージのワンちゃんにも適しています。
6. 【補足】猫の心臓病用食事
猫の心臓病では、腎臓や下部尿路など他の病気を併発していることも多いため、それらにも配慮した食事が選ばれることがあります。
- ロイヤルカナン 心臓サポート(猫用): うっ血性心不全などの心臓病を持つ猫ちゃんのために、ナトリウムを制限し、心臓の健康維持をサポートするお食事です。
- ヒルズ k/d 早期アシスト(猫用): 本来は初期の腎臓病用ですが、心疾患を併発している場合にも適応となります。
- ヒルズ c/d マルチケア(猫用): 主に下部尿路疾患に対応するお食事ですが、心臓にも配慮してナトリウム量が調整されています。
7. トッピングの注意点
療法食はそれ自体が治療の一部であり、栄養バランスが精密に計算されています。トッピングをすることでそのバランス、特にナトリウムの量を崩してしまう可能性があるため、注意が必要です。
基本のルール
トッピングやおやつは、1日の総摂取カロリーの10%未満に抑えるのが原則です。ですが、心臓病の子の場合は、より厳しく考え、風味付け程度の極少量にとどめるのが理想です。
トッピングしても良いもの(具体例)
- 一番安全なのは「療法食のウェットフード」: ドライフードに、同じ種類のウェットフードを少量混ぜてあげると、風味が増して食欲がアップします。
- お肉・お魚: 味付けをしていない、茹でたささみや鶏胸肉(皮なし)、茹でたタラなどの白身魚。
- 野菜・いも類: 茹でたニンジン、ブロッコリー、かぼちゃ、さつまいも。(※与えすぎに注意)
絶対に避けるべきもの(ナトリウムが非常に多い!)
- 人間用の加工食品: ハム、ソーセージ、チーズ、パン、ちくわ、かまぼこなど。
- 味付けされたもの: 食卓に並ぶお料理のおすそ分けは絶対にやめましょう。
- 市販の犬用おやつ: ジャーキーやビスケット、ガムなども塩分が多く含まれていることが多いので、原則として与えないでください。
大切な家族のために
毎日の食事が、お薬の効果を高め、時にはお薬の量を減らすことにも繋がります。病気の進行を遅らせ、ワンちゃん・ネコちゃんが健やかでいられる時間を一日でも長くするために、今日から一緒にお食事管理を始めていきましょう。

