047-700-5118
logo logo

診察時間
午前9:00-12:00
午後15:00-18:00
手術時間12:00-15:00
水曜・日曜午後休診

banner
NEWS&BLOG
急性・慢性胃炎






急性・慢性胃炎


急性・慢性胃炎の治療

概要

この記事は、犬の消化器疾患、特に「急性胃炎」「慢性胃炎」「ヘリコバクター感染症」「急性出血性下痢症候群(AHDS)」の診断と治療に関するガイドラインを解説したものです。病気の原因、治療方針、そして具体的な薬の使い方(薬品名や投与量)について詳しく見ていきましょう。

1. 急性胃炎 (Acute Gastritis)

急な嘔吐を主な症状とする胃の粘膜の炎症です。

病態(原因)

  • 主な原因: 不適切なものを食べた(拾い食いなど)、腐敗したものの摂取、過食が最も一般的です。
  • その他の原因:
    • 薬物:非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)など
    • 化学物質や毒物
    • ウイルスや細菌感染
    • ストレス

治療方針

  • 原因の除去と対症療法: まずは原因を取り除くことが重要です。多くは24時間以内の絶食と、その後の消化の良い食事への切り替えで改善します。
  • 輸液療法: 脱水症状がある場合や、食事がとれない場合は点滴(輸液)を行います。
  • 制吐薬(吐き気止め): 嘔吐が続く場合は、中枢神経に作用する制吐薬(マロピタントなど)を使用します。
  • 消化管運動機能改善薬: 胃の動きを活発にする薬で、食欲不振や嘔吐を抑える効果があります。
    • メトクロプラミド: ドパミンD₂受容体を遮断し、アセチルコリンの遊離を促進して胃の運動を改善します。
    • モサプリド: セロトニン5-HT₄受容体を刺激し、胃の運動を促進します。

2. 慢性胃炎 (Chronic Gastritis)

長期間にわたって胃の炎症が続く状態です。

病態(原因)

  • 多くは原因不明(特発性)です。
  • 考えられる要因:
    • 食事: 食事中のアレルゲンが関与している可能性。
    • 免疫介在性: 免疫システムが自身の胃を攻撃してしまうリンパ球形質細胞性胃炎など。
    • ヘリコバクター属菌: 胃の中に生息する細菌。
    • その他: 腎不全や肝臓病などの全身性疾患が原因となることもあります。

診断

確定診断のためには、内視鏡による生検(胃の組織を採取して調べること)が不可欠です。これにより、炎症のタイプや重症度、ヘリコバクターの有無などを評価します。

治療方針

  • 食事療法: 低アレルギー食や低脂肪食などを2〜4週間試します。
  • 制酸薬(胃酸を抑える薬):
    • H₂受容体拮抗薬(H₂RA): ファモチジンなど。胃酸の分泌を抑えます。
    • プロトンポンプ阻害薬(PPI): オメプラゾール、ランソプラゾールなど。H₂RAよりも強力に胃酸分泌を抑制します。重度の食道炎や潰瘍が疑われる場合に使用されます。PPIは胃内のpHを4.0以上に長時間維持することを目標とします。
  • 粘膜保護薬:
    • スクラルファート: 荒れた胃の粘膜に付着して保護膜を作り、粘膜の修復を助けます。食事の1〜2時間前に投与するのが効果的です。
  • コルチコステロイドと免疫抑制薬:
    • リンパ球形質細胞性胃炎などで、食事療法や対症療法に反応しない場合に使用します。
    • プレドニゾロン: ステロイド薬。最初は高用量で始め、症状が改善したら徐々に減量します。
    • シクロスポリン: 免疫抑制薬。プレドニゾロンで効果がない、または副作用が強い場合に使用を検討します。

3. ヘリコバクター感染症

ヘリコバクター属菌が胃炎の原因となっている場合の治療法です。

治療法(除菌療法)

以下の3つの薬を組み合わせて1〜2週間投与する「3剤併用療法」が一般的です。

  • プロトンポンプ阻害薬(PPI): オメプラゾールなど
  • アモキシシリン
  • メトロニダゾールまたはクラリスロマイシン

4. 急性出血性下痢症候群 (AHDS)

突然の激しい血便と嘔吐を特徴とする重篤な疾患です。以前は出血性胃腸炎(HGE)と呼ばれていました。

特徴

  • 小型犬に多く見られます。
  • 主な原因: Clostridium perfringens という細菌とその毒素が関与していると考えられています。
  • 症状: 「ラズベリージャム」のような特徴的な血便、嘔吐、急激な脱水。

治療のポイント

  • 積極的な輸液療法: 最も重要な治療です。ショック状態に陥ることがあるため、迅速かつ大量の点滴で脱水と循環を改善します。
  • 抗菌薬: 議論の余地があり、全ての症例で必要とは限りませんが、重症例では投与が検討されます。

重要なキーポイント

  • 初期治療と確定診断: 治療の初期段階では症状を和らげる対症療法を行いますが、改善が見られない場合は、内視鏡検査などの精密検査を行い、確定診断を下すことが重要です。
  • AHDSの輸液: 急性出血性下痢症候群(AHDS)では、何よりもまず積極的な輸液(点滴)が命を救います。
  • 薬剤の慎重な使用: 制酸薬や抗菌薬などは、その必要性を慎重に判断して使用すべきです。特にPPI(プロトンポンプ阻害薬)は強力な薬であるため、その使用はH₂RAで効果がない場合や、より重篤な状態が疑われる場合に限定されるべきとされています。

薬剤と投与量

注意:これらの薬の使用は必ず獣医師の診断と指示のもとで行ってください。

薬剤名 (商品名例) 用途 投与量
制吐薬・消化管運動改善薬
マロピタント (セレニア) 嘔吐 1mg/kg、皮下注射、1日1回
メトクロプラミド (プリンペラン) 嘔吐、食欲不振 0.2〜0.4mg/kg、経口/皮下/筋肉注射、1日1〜3回
モサプリド (プロナミド) 食欲不振 0.5〜2mg/kg、経口、1日2回
オンタンセトロン (ゾフラン) 嘔吐 0.2mg/kg、静脈注射、1日1〜2回
制酸薬(胃酸を抑える薬)
ファモチジン (ガスター) 胃炎、潰瘍 0.5〜1mg/kg、経口/静脈注射、1日1〜2回
オメプラゾール (オメプラール) 胃炎、潰瘍 0.5〜1mg/kg、経口/静脈注射、1日1〜2回
ランソプラゾール (タケプロン) 胃炎、潰瘍 0.5mg/kg、経口、1日1回
粘膜保護薬
スクラルファート (アルサルミン) 胃炎、潰瘍 0.5〜1g/kg、経口、1日2〜3回
ミソプロストール NSAIDsによる潰瘍 1〜3μg/kg、経口、1日2〜4回
抗菌薬
アモキシシリン ヘリコバクター除菌 20mg/kg、経口、1日2回
クラリスロマイシン (クラリス) ヘリコバクター除菌 7.5〜10mg/kg、経口、1日2回
メトロニダゾール (フラジール) ヘリコバクター除菌 10〜20mg/kg、経口、1日2回
ステロイド・免疫抑制薬
プレドニゾロン 免疫介在性胃炎 1〜2mg/kg、経口、1日1回
シクロスポリン 免疫介在性胃炎 5mg/kg、経口、1日1〜2回
アザチオプリン (イムラン) 免疫介在性胃炎 1〜2mg/kg、経口、1日1回