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急性出血性下痢症候群(AHDS)とは?

ワンちゃんが突然の血便…!
急性出血性下痢症候群(AHDS)とは?

この記事では、ワンちゃんに突然発症する重篤な消化器疾患「急性出血性下痢症候群(AHDS)」について解説します。以前は「急性出血性胃腸炎(HGE)」と呼ばれていましたが、現在はAHDSという名称が使われています。突然の嘔吐やイチゴジャムのような血便が見られたら、すぐにこの記事をチェックしてください。

1. 急性出血性下痢症候群(AHDS)とは?

急性出血性下痢症候群(AHDS)は、突然の嘔吐、激しい血様の下痢、そして血液が濃縮される(血液中の水分が急激に失われる)といった症状が特徴の、重篤な病気です。単なる下痢症とは異なり、特別なメカニズムで発症すると考えられています。

2. 原因

以前は「原因不明」とされていましたが、最近の研究により原因がかなり特定されてきています。

最新の有力な原因: ウェルシュ菌としても知られるクロストリジウム・パーフリンジェンス菌が産生する「NetF」や「NetE」といった毒素が、AHDSの発症に強く関与している可能性が示されています。研究によると、AHDSを発症した犬の便からは、この毒素を作る遺伝子を持つ菌が非常に高い確率で見つかります。

以前考えられていた要因: 上記に加え、細菌が出す他の毒素(エンドトキシン)、アレルギー反応の一種であるアナフィラキシー、あるいは免疫システムの異常な反応なども、発症に関わる可能性が指摘されています。

体の中で起きていること: 病理学的には、毒素などの影響で腸の表面(上皮)や粘膜が壊死(えし)して剥がれ落ちる変化が見られます。

3. どのような症状が現れるか?

この病気は、非常に特徴的で急激な症状を示します。

  • 突然の発症: ついさっきまで全く元気にしていたのに、突然ぐったりして嘔吐するのが主な初期症状です。
  • 特徴的な血便: その後、「ラズベリージャム」と形容されるような、ゼリー状の粘液が混じった真っ赤な血便を大量にします。
  • 独特な異臭: 便からは、ものが腐ったような独特の強い臭いがします。
  • 循環不全: 発症が急激なため、典型的な脱水症状が見られる前に、体の隅々まで血液が届かなくなる「末梢循環不全」という危険な状態に陥ります。

4. どのように診断されるか?

診断は、特有の症状や飼い主からの話、そして各種検査を組み合わせて慎重に行われます。

  • 問診と身体検査: 「突然ぐったりして嘔吐した」といった飼い主からの話や、特徴的な便の臭いが診断の重要な手がかりになります。来院時にまだ下痢をしていなくても、この病気が疑われる場合は速やかに採便して確認することが重要です。
  • 血液検査 (CBC): 赤血球の割合を示すPCV値が著しく上昇します。血液が濃縮され、時には80%を超えることもあります。白血球の数は通常、正常範囲内です。
  • 血液生化学検査: 肝臓の数値であるALT、ASTが著しく上昇します。その他の項目に特異的な異常は見られません。
  • 糞便検査・ウイルス検査: 一般的な糞便検査では、原因となる寄生虫などは見つかりません(陰性)。似た症状を示すパルボウイルス感染症の検査も陰性となります。これが重要な鑑別点です。

5. どのような治療を行うか?

治療の目的は、急激に失われた水分を補ってショック状態から離脱させることと、腸から細菌が体内に侵入するのを防ぐことです。

  • 最優先される治療:迅速な点滴: 重度の循環不全で血管が見えにくい場合でも、ためらわずに皮膚を小さく切開し、直接血管を確認して点滴の針を挿入する必要があります。まず、乳酸加リンゲル液などを1〜2時間、非常に速いスピード(10〜90ml/kg/hr)で投与し、ショック状態を改善します。その後、状態が安定したら通常の維持流量に減らします。
  • 抗生物質の投与: 以前は、腸内細菌(特にクロストリジウム属)の侵入を防ぐために抗生物質(アンピシリンなど)の投与が推奨されていました。しかし最近では、原因とされる細菌は抗生物質なしでも自然に減少することが分かってきたため、必ずしも全ての症例で必要ではないという考え方が広まっています。敗血症など重度の細菌感染を疑う場合を除き、輸液を中心とした支持療法がメインとなります。
  • 絶食・絶水: 胃腸を休ませるため、48時間は食べ物も水も与えません。その後、状態を見ながら低アレルギー性の食事(セレクトプロテインなど)から少しずつ給餌を再開します。

🚨 注意点 🚨
通常の下痢で使われるような下痢止め(収斂剤)や腸の動きを止める薬(抗コリン剤)は、毒素を体内に留めてしまう可能性があるため、この病気では使用しません。

6. 予後(治療後の見通し)

  • 危険性: 非常に進行が速く、病院に着いた時には既に亡くなっていることもある、命に関わる危険な病気です。
  • 救命率: しかし、生きた状態で治療を開始できれば、迅速で適切な対処による救命率は高いとされています。
  • 回復: 血の混じった下痢は24〜48時間ほど続くことが多いですが、その後の状態の改善は早い傾向にあります。
  • 再発: この病気は再発を繰り返すことが多いため、飼い主はその可能性を理解しておく必要があります。再発防止策として、アレルギー反応を起こしにくいタンパク質を使った食事(低分子プロテイン、セレクトプロテインなど)が有効な場合があります。