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犬の発作重積






犬の発作重積(てんかん重積)の


犬の発作重積(てんかん重積)治療

この記事では、犬の神経科救急疾患である「発作重積(Status Epilepticus; SE)」に対する診断、治療、管理のプロトコルを解説します。

1. 病態と定義

定義

発作重積とは、単一のけいれん発作が5分以上持続する状態、もしくは発作間の意識回復が不完全なまま複数の発作が反復する状態と定義されます。

病態生理

これは脳の過剰な電気的興奮が持続する状態で、不可逆的な神経細胞死を引き起こす可能性があるため、緊急治療を要する神経学的緊急疾患です。原因としては、特発性てんかんの犬で偶発的に発生する場合が多いですが、脳炎、中毒、代謝性疾患など様々な基礎疾患が関与する可能性も考慮されます。

2. 治療方針と初期対応

治療の成否は早期介入にかかっているため、迅速な判断と対応が求められます。

  • 治療開始のタイミング: 発作が5分以上継続している時点で「異常に長い」と判断し、治療を開始することが重要です。発作開始から30分以内に治療を開始した場合の反応率は80%以上ですが、2時間以上経過すると40%以下に低下するというデータが示されています。
  • 鑑別診断: まず、観察されている事象が真の発作重積であるかを確認します。鑑別すべき疾患として、失神、急性両側性前庭障害(めまい)、ナルコレプシー/カタプレキシー、行動異常(常同行動など)が挙げられます。これらは発作と誤認されやすいですが、治療法が全く異なるため、慎重な判断が必要です。
  • 循環・呼吸機能の評価: 治療の最優先事項は生命維持です。気道確保、呼吸状態、循環動態(心拍数、血圧など)を評価し、必要であれば酸素投与や気管挿管などの処置を躊躇なく行います。

3. 薬物療法:発作の停止

発作を迅速に停止させるため、段階的に薬剤を投与します。

第一選択薬:ベンゾジアゼピン系薬剤

目的: 迅速な発作抑制。

薬剤と投与経路:

  • 静脈内投与 (IV): 最も確実で速効性があるため第一選択。血管確保が必須です。
    • ジアゼパム (ホリゾン®): 0.5-2 mg/kgを静注。効果がなければ3-4分後に再投与。作用時間が短い(半減期15-20分)点に注意が必要です。
  • 血管確保が困難な場合:
    • ミダゾラム (ミダゾラム®): 0.2-0.4 mg/kgを鼻腔内噴霧または筋肉内投与。ジアゼパムより吸収が良好とされます。
    • ジアゼパム経直腸投与: 0.5-2 mg/kg。吸収にばらつきがあるため、他の経路が使えない場合に検討されます。

第二選択薬:第一選択薬で発作が抑制できない場合

ベンゾジアゼピン系薬剤の持続点滴 (CRI)

  • 目的: 発作の再燃を防ぎ、脳を安定させる。
  • ジアゼパムCRI: 0.2-0.3 mg/kg/時の用量で開始。12-24時間程度の持続が推奨されます。
  • ミダゾラムCRI: 0.2-0.3 mg/kg/時の用量で開始。ジアゼパムより作用時間が短いため、投与量の調整が容易です。

長時間作用型抗てんかん薬の負荷投与

  • 目的: ベンゾジアゼピン系薬剤の効果は短時間であるため、持続的な抗てんかん作用を持つ薬剤を早期に導入し、血中濃度を有効域まで迅速に上昇させます。
  • フェノバルビタール (フェノバール®): 3 mg/kgを1時間ごとに静注し、発作が消失するまで、または総投与量が18 mg/kgに達するまで繰り返します。血圧低下や呼吸抑制の副作用に注意が必要です。
  • レベチラセタム (イーケプラ®): 20-60 mg/kgを静注。副作用が比較的少なく、安全性が高いとされています。

第三選択薬:難治性発作重積 (Refractory SE) の場合

  • 目的: 上記治療に反応しない極めて重篤な状態において、脳を保護するために麻酔下で管理します。
  • 薬剤:
    • プロポフォール: 全身麻酔薬。持続点滴により発作を抑制します。
    • ペントバルビタールカルシウム: バルビツール酸系麻酔薬。現在では使用機会は減少していますが、他の薬剤に反応しない場合の選択肢となり得ます。

4. 支持療法とモニタリング

  • 血液検査: 発作の原因究明と全身状態の評価のために採血が必須です。
    検査項目: 全血球計算(CBC)、血液化学検査(Na, K, Cl, Ca, 血糖値, 肝・腎機能マーカー)、血液ガス分析、CPK(筋肉のダメージ指標)など。特に低血糖や低カルシウム血症は発作の直接的な原因となりうるため迅速な評価が重要です。
  • 静脈内輸液: 脱水補正、血管確保、薬剤投与ルート確保のために行います。低血糖があれば5%ブドウ糖液を使用するなど、状態に応じて輸液製剤を選択します。
  • 合併症の管理:
    • 高体温: 発作による筋肉活動で発生。41℃を超えると多臓器不全のリスクが高まるため、冷却処置が必要です。
    • 脳浮腫: 長引く発作は脳圧亢進を引き起こします。マンニトールなどの浸透圧利尿薬や、議論はあるもののコルチコステロイドの使用が検討される場合があります。
    • その他: 誤嚥性肺炎、横紋筋融解症による腎障害、播種性血管内凝固(DIC)、代謝性アシドーシスなど、多岐にわたる合併症を常に念頭に置き、モニタリングと管理を行います。
  • モニタリング:
    • 神経学的状態、バイタルサイン(TPR、血圧)、パルスオキシメトリー(SpO2)、心電図(ECG)などを継続的に監視します。
    • 発作が抑制された後も、最低12-24時間は再発がないか厳重に監視し、意識レベルや歩行機能の回復を確認する必要があります。

まとめ

犬の発作重積は、極めて危険な状態ですが、体系的かつ段階的なアプローチによって治療が行われます。迅速な初期対応、的確な薬物選択、そして綿密なモニタリングと支持療法が、救命率を向上させ、後遺症を最小限に抑える鍵となります。