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犬猫のショック ② 敗血症性ショック

【はじめに:飼い主様へ】

非常に深刻で、命に関わる病気のため、専門的な言葉が多く出てきますが、ご家族の一員であるワンちゃん・ネコちゃんがどのような状態にあり、どのような治療を受けているのかを理解するための一助となれば幸いです。


重要:ここに記載されている情報は、あくまで一般的な知識を深めるためのものです。実際の診断や治療は、必ず担当の獣医師の判断に従ってください。動物の状態は一頭一頭まったく異なります。

第1部:そもそも「敗血症性ショック」ってどんな病気?

簡単に言うと、「感染症が原因で、体じゅうのシステムが暴走してしまい、命が危険な状態」です。

  • 感染症: 体のどこか(例えば、子宮、傷口、お腹の中など)で細菌などが増えてしまう状態です。
  • 敗血症: その細菌や、細菌が出す毒素に対して、体の免疫システムが過剰に反応してしまいます。火事を消すために消防車を呼んだら、消防車が暴走して街全体を破壊し始めるようなイメージです。この体じゅうの過剰な炎症反応を「SIRS(全身性炎症反応症候群)」と呼び、その原因が感染症である場合を「敗血症」と呼びます。
  • 重症敗血症: 免疫の暴走によって、様々な臓器(腎臓、肝臓など)がダメージを受け、機能しなくなってきます(多臓器不全)。
  • 敗血症性ショック: 最終段階です。体の血管が異常に広がってしまい、血圧を維持できなくなります。たくさんの点滴(輸液)をしても血圧が上がらない、非常に危険な状態です。

第2部:獣医師はどのように診断するの?

獣医師は、飼い主さんからのお話、体の検査、そして精密検査を組み合わせて、パズルのように診断を組み立てていきます。

1. 飼い主さんからのお話(問診)

以下のような症状がないか、詳しくお伺いします。

  • 食欲がない、元気がない
  • お水をたくさん飲む、おしっこが多い
  • 吐いている、下痢をしている
  • 呼吸がおかしい
  • 陰部から膿が出ている(子宮蓄膿症のサイン)、尿の色がおかしい、怪我をしたことがある

2. 体のチェック(身体検査)

  • 犬の場合:
    初期(ウォームショック): 体がまだ頑張っている段階です。血管が広がっているため、歯ぐきが真っ赤になり、脈がドクンドクンと強く触れます。
    進行期(ハイボダイナミック期): 体が力尽きてきた段階です。歯ぐきは白っぽくなり、体温や血圧が下がってきます。
  • 猫の場合:
    犬のような初期のサインは分かりにくく、最初から体温が低い、心拍数が遅い、血圧が低いといったショック症状を示すことが多いです。

3. 精密検査

SIRS(全身性炎症反応症候群)の診断基準
獣医師は、体の炎症が全身に及んでいるかを判断するために、以下のチェックリストを使います。基準を満たすと、敗血症が強く疑われます。

【犬の基準】 (4項目のうち2項目以上を満たす場合)

診断項目 基準値
体温(℃) 38.1℃未満 または 39.2℃より高い
心拍数(/分) 120回より多い
呼吸数(/分) 20回より多い
白血球数・杆状核好中球(%) 6,000/µL未満 または 16,000/µLより多い、かつ未熟な好中球が3%より多い

【猫の基準】 (4項目のうち3項目以上を満たす場合)

診断項目 基準値
体温(℃) 37.8℃未満 または 40℃より高い
心拍数(/分) 140回未満 または 225回より多い
呼吸数(/分) 40回より多い
白血球数 5,000/µL未満 または 19,000/µLより多い

その他の検査

  • 血圧測定と超音波検査(FAST): 循環状態の確認と、お腹の中に異常な液体(腹水)がないかを調べます。
  • 腹水検査: もしお腹に液体が溜まっていたら、注射器で抜いて詳しく調べます。これは診断の大きな手がかりになります。
    疑われる病気 検査で何を見るか(何が起こっているか)
    感染性腹膜炎
    (お腹の中で細菌感染)
    血液中の糖分から腹水中の糖分を引いた差が20mg/dL以上ある(細菌が糖分を食べてしまうため)。
    膵炎 腹水中のアミラーゼやリパーゼ(膵臓の酵素)が、血液中より高い。
    胆汁性腹膜炎
    (胆嚢が破れた)
    腹水中のビリルビン(胆汁の色素)が、血液中の2倍以上ある。
    尿性性腹膜炎
    (膀胱などが破れた)
    腹水中のクレアチニン(腎臓から出る老廃物)が、血液中の2倍以上ある。カリウムの比率も参考にする(犬は1.4倍以上、猫は1.9倍以上)。
    腹腔内出血 (猫) 腹水の血液濃度(PCV)が5%以上ある。
  • 血液検査: 全身の臓器(肝臓、腎臓など)がダメージを受けていないか、貧血や栄養状態、血液を固める機能に異常がないかをチェックします。
  • 乳酸値測定: 乳酸値が高いと、体の細胞がうまくエネルギーを使えていないサインであり、重症度と関係します。治療の反応を見る指標にもなります。
  • 血液培養: 可能であれば、抗生物質を投与する前に血液を採取し、原因となっている細菌を特定するための検査に出します。これにより、後で最も効果的な抗生物質を選ぶことができます。

第3部:どのように治療するの?

治療は時間との戦いです。目標は「①まず命を繋ぎ止め(循環の安定化)」、「②原因の感染症を叩く」ことです。

治療方針

  • 循環動態の安定化: 手術が必要な場合でも、まずは点滴やお薬で血圧などを安定させることが最優先です。
  • 輸液蘇生(点滴): 体の水分を補うために点滴を行いますが、多すぎると危険なため慎重に量を調整します。
  • 血管収縮薬: 点滴をしても血圧が上がらない場合、血圧を上げる強力なお薬(昇圧薬)を使います。
  • 抗菌薬投与: 診断から1時間以内に、広い範囲の細菌に効く抗生物質の投与を開始することが生存率に大きく影響します。
  • 播種性血管内凝固(DIC)の治療: 血液が固まらなくなる危険な状態。輸血などで対応します。
  • 消化管虚血の防止: ショック状態では胃や腸の粘膜が荒れやすいため、保護する必要があります。
  • コルチコステロイド: 一般的には使用されません。

【処方薬の詳細】

注意:以下は獣医師向けのガイドに記載されているリストです。実際にどのお薬をどの量で使うかは、獣医師が動物の状態をみて厳密に判断します。

《輸液製剤》

薬剤名 犬の用量 猫の用量 考察・注意点
晶質液
(乳酸リンゲル液など)
10~20 mL/kg, 15分かけて点滴 10 mL/kg, 15分かけて点滴 まず最初に行う基本的な点滴。状態を再評価して追加投与する。
ヒドロキシエチルデンプン 70000 5 mL/kg, 10分以上かけて点滴 2.5~5 mL/kg, 10分以上かけて点滴 血管内に水分を保つ力が強い液体。猫では急速投与で吐き気が出ることがある。
7.5% 高張食塩液 3~5 mL/kg, 5分以上かけて点滴 3~5 mL/kg, 5分以上かけて点滴 急速に血圧を上げる効果があるが、一時的に心拍数が下がったり血圧が下がることがある。
濃厚赤血球、凍結新鮮血漿 10~20 mL/kg, 2~4時間かけて点滴 10~20 mL/kg, 2~4時間かけて点滴 貧血や血液凝固異常の時に使用。心臓病がある場合はゆっくり投与。
新鮮全血 20 mL/kg, 2~4時間かけて点滴 20 mL/kg, 2~4時間かけて点滴 大出血時などに使用。

《血管収縮薬・強心薬》

薬剤名 犬の用量 (µg/kg/分) 猫の用量 (µg/kg/分) 作用・注意点
ドパミン塩酸塩 1~4, 5~10, 10~20 1~4, 5~10, 10~20 用量によって血管拡張、心収縮力UP、強い血管収縮と効果が変わる。
ドブタミン塩酸塩 2~20 2~5 主に心臓の収縮力を高める。猫では発作を起こす可能性。
ノルアドレナリン 0.05 0.05 強い血管収縮作用で血圧を上げる。
バソプレシン 0.05~2 mU/kg/分 (記載なし) 体が酸性に傾いている時でも血管を収縮させる効果がある。

《鎮痛・鎮静薬》

薬剤名 犬の用量 猫の用量 考察・注意点
ブプレノルフィン 0.005-0.02 mg/kg, 8時間ごと 0.005-0.02 mg/kg 痛み止め。猫では口の粘膜からの吸収が良い。
ブトルファノール 0.1-0.4 mg/kg/時 (持続点滴) 0.1-0.4 mg/kg/時 (持続点滴) 鎮痛・鎮静作用。
フェンタニル 2-10 µg/kg/時 (持続点滴) 1-4 µg/kg/時 (持続点滴) 強力な痛み止め。
モルヒネ 0.25-1 mg/kg, 4-6時間 0.05-0.5 mg/kg, 4-6時間 強力な痛み止め。急な静脈注射は嘔吐を引き起こすためゆっくり投与。
ケタミン 0.1-0.6 mg/kg/時 (持続点滴) 2-5 µg/kg/時 (持続点滴) 鎮痛・鎮静。頭の怪我や高血圧、心臓病では注意が必要。
ミダゾラム / ジアゼパム 0.1-0.5 mg/kg/時 (持続点滴) 0.1-0.5 mg/kg/時 (持続点滴) 鎮静薬、抗けいれん薬。

《消化管保護薬》

薬剤名 犬の用量 猫の用量 作用
オメプラゾール 0.7-1 mg/kg, 1日1回 0.7-1 mg/kg, 1日1回 強力な胃酸分泌抑制薬。
ファモチジン 0.5-1 mg/kg, 1日1-2回 0.5-1 mg/kg, 1日1-2回 胃酸分泌抑制薬。
マロピタント (セレニア®) 1 mg/kg, 1日1回 1 mg/kg, 1日1回 強力な吐き気止め。

第4部:予後(今後の見通し)

敗血症性ショックは、非常に厳しい病気です。

  • 予後は、もともとの病気の重症度や、治療にどれだけ体が反応してくれるかにかかっています。
  • 24時間体制での集中治療や長期入院が必要になるため、治療費は高額になる傾向があります。
  • 残念ながら死亡率は高く、来院した時点での栄養状態が悪い、心臓や血管の機能が著しく低下している、腎臓に障害がある、複数の臓器が機能不全に陥っているなどの場合は、特に予後が悪化する要因となります。

【最後に】

ご家族がこのような深刻な状態にあることは、飼い主様にとって非常につらく、ご不安なことと存じます。この情報が、獣医師からの説明をより深く理解し、病気と向き合うための少しでもお役に立てれば幸いです。分からないことや不安なことは、どんな些細なことでも担当の獣医師に質問してください。