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犬猫の頸部痛は「椎間板だけ」と決めつけないことが大切です。
この記事でわかること
首が痛いときにまず疑う病気と、椎間板ヘルニアだけでは説明できない場合に髄膜炎やMUO(起原不明の髄膜脳脊髄炎)をどう疑い、どの順番で検査し、どのように治療計画を立てるかを、文献が手元になくても理解できる形で整理します。
犬や猫の頸部痛は、「首が痛い」というよりも、日常動作の変化として現れることが多いです。例えば、頭を下げられない、上を向いたまま固まる、食べるときに首を動かしたがらない、抱っこすると鳴く、触ろうとすると嫌がる、動きがぎこちない、痛そうに震える、といった様子が見られます。症状が強い日と軽い日があり、診察室では痛みがはっきりしない日もあるため、家庭での様子の情報がとても重要になります。
頸部痛の原因として最もよく知られているのが頸部椎間板疾患(頸部椎間板ヘルニア)です。首の骨の間にある椎間板が変性し、突出することで痛みや神経症状を起こします。頸部椎間板疾患では、頸部の痛みに加えて、前肢や後肢のふらつき、足先の感覚の異常、歩様の変化などが出ることもあります。
ところが、頸部痛があるのに神経学的異常がはっきりしない、痛み止めで十分に改善しない、ステロイドで良くなるが減量や中止で再燃する、症状が波打つ、震えや軽い発熱のような全身性の要素が混じる、といった場合には、頸椎の問題だけでは説明できないことがあります。このときに重要になるのが、髄膜炎やMUO(起原不明の髄膜脳脊髄炎)などの炎症性中枢神経疾患です。これは感染症とは限らず、免疫の異常な反応により脳や脊髄、髄膜に炎症が起きる病態が含まれます。
頸部痛の評価では、まず全身状態を確認し、神経学的検査で病変の局在を推定します。頸部痛が中心で、末梢神経や筋肉の病気を強く疑う所見が乏しい場合、頸髄上部(C1〜C5)や脳幹を含む中枢神経の関与を考えます。ただし、痛み症例では所見が日によって揺れることがあるため、頸部以外の脊椎領域の併発や、多発性病変の可能性も同時に残します。
血液検査は、麻酔の安全性評価や併発疾患の把握に重要です。炎症性中枢神経疾患では、血液検査で目立つ異常が出ないこともあり、血液検査が正常でも否定はできません。臨床像と経過を重視し、必要な検査につなげることが大切です。
レントゲン(X線)は、脊椎の骨病変、明らかな不安定性、腫瘍性変化などを拾い上げる目的で有用です。ただし、椎間板の突出や髄膜・脳脊髄の炎症を確定する検査ではありません。臨床像が「椎間板だけでは説明できない」方向に傾く場合、早い段階でMRI検査を計画することが診断の鍵になります。
MRIは、脳と脊髄の中の変化を直接評価できる検査です。炎症性中枢神経疾患では、脳の白質や脳幹、頸髄に多発性の信号変化が見られることがあります。さらに脳脊髄液検査では、細胞数の増加や蛋白の増加、細胞分画(単核球優位か、好中球が混じるかなど)を確認し、必要に応じて感染性疾患の検査も組み合わせます。これらを合わせて評価することで、MUOなどの炎症性疾患を強く疑う根拠が揃います。
検査の順番で大切なこと
ステロイドはMRIの造影所見やCSFの細胞反応を鈍らせる可能性があります。理想はMRIとCSFの採取後に免疫抑制治療を開始することです。ただし、強い痛みが続く場合や神経症状が進行する場合は、救急として治療を優先し、できるだけ早く高次検査に切り替える計画を立てます。
頸部痛の鑑別は、原因カテゴリで整理すると漏れを減らせます。変性性(椎間板疾患、頸椎症など)、炎症性・感染性(髄膜炎、髄膜脳脊髄炎)、腫瘍性(脳腫瘍、脊髄腫瘍)、奇形性(キアリ様奇形、脊髄空洞症)、外傷性、血管性などを同時に考え、症例の経過や反応性から優先順位を調整します。
頸部痛の治療では、原因が椎間板疾患であっても炎症性疾患であっても、まず痛みをしっかり抑え、生活の質を守ることが重要です。検査を待っている間も、痛みが強ければ鎮痛を適切に行い、食べられる、眠れる、移動できる状態を作ります。炎症性中枢神経疾患が疑われる場合は、診断情報を守りつつ治療を進める設計が必要になり、可能ならMRIとCSFの後に免疫抑制を開始します。ただし、重度の痛みや進行がある場合は治療を先に開始し、早期に高次検査へ切り替えるという現実的な判断も重要です。
MUOが疑われる、あるいはMRIとCSFから強く示唆される場合、免疫抑制療法を組み立てます。中心となるのはプレドニゾロンですが、ステロイドを長期に高用量で続けると副作用が問題になりやすく、また減量で再燃しやすいため、早期から第2の免疫抑制薬を併用し、ステロイドを漸減できる設計を取ることが多いです。
免疫抑制の考え方
2つまたは3つの治療を併用し、プレドニゾロンは反応を確認しながら徐々に漸減していく設計が、再燃と副作用の両方を減らすうえで合理的と考えられます。早すぎる減量は再燃の原因になりやすいため、症状と神経学的所見を見ながら、再燃しない速度で下げていきます。
炎症性中枢神経疾患が疑われる段階では、診断情報を守りながら痛みを管理する発想が重要です。痛みが強い場合、オピオイド系鎮痛薬、神経障害性疼痛に用いられる薬、筋緊張が目立つ場合の筋弛緩薬などを症例に応じて組み合わせ、生活の質を守ります。NSAIDsとステロイドを同時に使うことは消化管障害のリスクを高めるため、薬剤の切り替えは原則として慎重に行い、必要に応じて胃腸保護も含めて設計します。
治療開始後は、改善速度と再燃の有無で計画を修正します。48〜72時間で頸部痛が明確に軽減し、1〜2週間で生活の質が戻る場合は、免疫抑制の導入が適切に効いている可能性が高く、漸減へ向けた計画を立てます。一方で、ステロイドで一瞬良くなるがすぐ戻る、減量で再燃する、神経症状が進行する、全身状態の変化が出る場合は、診断の再評価と治療強化が必要です。MRIの再評価やCSFの再検討、免疫抑制薬の追加・変更を検討し、感染が混じっていないかも含めて見直します。
頸部痛は椎間板疾患が重要ですが、NSAIDsで不十分で、ステロイドで改善し、減量や中止で再燃する、症状が波打つといった経過を示す場合には、炎症性中枢神経疾患を同列に置くことが大切です。X線は入口として役立ちますが、確定や重症度評価にはMRIと脳脊髄液検査が重要になります。理想はMRIとCSFの後に免疫抑制治療を開始することですが、強い痛みや進行がある場合には治療を優先し、できるだけ早く高次検査へつなげる設計が現実的です。
MUOが疑われる場合、プレドニゾロンを中心に、早期からAra-Cやシクロスポリンなどの免疫抑制薬を併用し、再燃しない速度で漸減する計画を立てます。痛みのコントロールと免疫抑制を並走させながら、経過に応じて再評価を行い、生活の質を守る治療を組み立てていきます。