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猫の乳腺腫瘍

この記事は飼い主さん向けの一般情報です。
最終判断・治療は必ずかかりつけ獣医師にご相談ください。安全のため薬の用量等の数値は意図的に記載していません。

猫の乳腺腫瘍 完全ガイド:見つけ方・検査・手術・術後ケアまで(保存版)

まずは要点(TL;DR)

  • 猫の乳腺腫瘍は約90%が悪性早期発見+広めの外科切除が基本。
  • 避妊の時期で発生リスクが大きく変化(≤6か月 −91%、7–12か月 −86%、13–24か月 −11%、24か月超は効果ほぼなし)。
  • 標準術式:片側乳腺全切除+リンパ節評価。両側病変は4–6週間あけて段階的に。
  • 予後はしこりの大きさ・転移で大きく変わる(詳細は本文)。
  • 術後は痛み・腎機能・創部の3本柱で管理。自宅ケアのコツあり。


1. 乳腺腫瘍ってどんな病気?

猫の乳腺(左右4対=計8個)にできる腫瘍で、約90%が悪性(がん)です。だからこそ早期発見×広い外科切除が治療の柱。見つけた時点の大きさ転移の有無が、その後の見通し(予後)を大きく左右します。

よく似た別疾患:線維腺腫性過形成(FAH:若いメスやプロゲステロン使用で乳腺がびまん性に腫れる良性疾患)、乳腺炎・嚢胞など。迷ったら細胞診や画像検査で鑑別します。

2. どのくらい起きる?(疫学・予防)

  • 発生は中〜高齢に多く、12〜14歳がピーク。
  • 避妊手術の時期でリスクが大きく変化:≤6か月 −91%、7–12か月 −86%、13–24か月 −11%、25か月以降は効果ほぼなし。
  • プロゲステロン製剤(発情抑制薬)使用歴があるとリスク約3.4倍
  • 品種差は小さいが、シャムでやや多い傾向。

3. おうちでできる早期発見チェック(3分ルーティン)

  1. リラックス時に左右の乳首ラインを指の腹でやさしくなぞる。
  2. 米粒〜小豆サイズの硬い「コロッ」とした結節がないか。
  3. 皮膚に固定され動きにくい/痛がる/赤み・分泌・潰瘍がないか。
  4. 見つけたら日付・場所・大きさを記録(定規+スマホ写真が便利)→早めに受診

ポイント:「様子見で大きくなってから」はNG。小さいほど成績が良いです。

4. 病院での診断の流れ

4-1. 身体検査

乳腺の位置・数・大きさ・皮膚の状態を確認。両側性の有無もチェック。

4-2. 細胞診(FNA)

細い針で細胞を吸い取り、顕微鏡で観察。良性/悪性の確定は難しい場合もあるが、他腫瘍(肥満細胞腫・リンパ腫)の除外に重要。猫は悪性が多いため、術前の切開生検は通常行わない。

4-3. 画像診断

  • 胸部X線:肺転移の有無(M)
  • 腹部超音波:内側腸骨など所属リンパ節(N)

4-4. 病期(TNM/WHO)

  • T(腫瘍サイズ):T1 <2cm/T2 2–3cm/T3 ≥3cm
  • N(リンパ節):N0なし/N1あり
  • M(遠隔転移):M0なし/M1あり(肺など)
  • WHOステージ:Ⅰ〜Ⅳ(M1ならⅣ)。最終確定は病理検査

5. 予後の目安(サイズ・転移)

条件 目安
腫瘍 < 2cm で切除 生存期間中央値 ≥ 3年
2–3cm 15〜24か月
≥3cm(T3/Ⅲ期相当) 4〜12か月
リンパ節転移あり 予後不良(報告では診断後9か月以内に全例死亡)
遠隔転移(肺など)あり=Ⅳ期 5か月未満が多い

6. 治療の基本:外科手術

片側乳腺全切除(unilateral chain mastectomy)+リンパ節評価が基本。両側病変では皮膚の負担や合併症を減らすため、4〜6週間あけて段階的に行うのが一般的(同時両側は負担が大きい)。

手術の主な流れ

  1. 体位:仰向け、腋窩〜陰部まで広くクリップ
  2. 切開:十分なマージンを意識し、紡錘形に大きく皮膚切開
  3. 剥離:皮下〜乳腺を筋膜上で丁寧に剥離。筋浸潤があれば筋膜/筋を合併切除
  4. 血管処理浅後腹壁動静脈→浅前腹壁動静脈の順に確実に結紮・切断
  5. リンパ節鼠径は後方乳腺と一塊で、腋窩は非腫大でも可能な範囲で切除、副腋窩は腫大時に切除
  6. 閉創真皮縫合→皮膚縫合で張力分散。必要に応じウォーキング縫合/減張切開、創部局所麻酔カテーテル

合併症例:漿液腫・創離開/感染・皮膚壊死・疼痛・AKI(腎)。いずれも早期発見と適切な処置が重要。

7. 術後ケア(入院〜自宅)

入院期(0〜2日)

  • 十分な点滴尿量モニタ(必要によりカテーテル)
  • 鎮痛:オピオイド持続+局所麻酔(ブピバカイン散布や創部カテーテル)
  • 抗菌薬の短期投与、血液検査で腎機能(AKI)を早期チェック

帰宅後〜抜糸(10〜14日)

  • エリザベスカラーは外さない/舐めさせない、安静を心がける
  • 投薬は指示どおり。飲ませづらい時は無理せず相談
  • 創部観察:赤み・膨らみ(漿液腫)・膿/悪臭・出血、発熱/元気食欲低下はすぐ連絡
  • 食欲・飲水・排尿量を記録(腎の目安)。便秘が続く場合も相談

スケジュール例:10〜14日 抜糸/病理結果説明 → 1〜3か月ごとの再診(触診・胸部X線、必要に応じ腹部エコー)。

8. 化学療法・内科治療

Ⅲ期(リンパ節転移)/Ⅳ期(遠隔転移)ではドキソルビシンカルボプラチン等を検討。NSAIDs(ピロキシカム・メロキシカム)は腫瘍関連炎症や血管新生を抑える可能性があるが、猫は腎にデリケートなため厳密なモニタが必須。目標は延命とQOL維持。

9. よくある意思決定の場面

  • ステージⅠ〜Ⅱ:外科が第一選択。断端陰性を目指し必要によりリンパ節も。
  • ステージⅢ:外科+化学療法を検討。術後フォローを厳密に。
  • ステージⅣ:外科負担とQOLのバランス。疼痛緩和・胸水管理・緩和ケアや化学療法の選択肢。

10. 予防と再発チェックの“型”

  • 若い猫は早めの避妊を前向きに。
  • 月1回のセルフ触診(乳首ライン)。
  • 記録:左右・番号(右1〜4/左1〜4)・大きさ・写真。
  • 3〜6か月ごとに病院で触診/画像検査(病歴に応じて計画)。

11. まとめ(Take-home)

猫の乳腺腫瘍は悪性が多い。だから小さいうちに見つけて広く取るが鉄則。サイズと転移が予後を左右し、術後は痛み・腎臓・創管理の3本柱+定期フォローで再発・転移を早期にキャッチ。迷ったら早めに相談が最良の一歩です。

付録:受診時に伝えるとスムーズな情報

  • 見つけた日・大きさの変化(いつからどのくらい)。
  • 場所(右/左・前から何番目)と、触った時の反応(痛がる/気にしない)。
  • 発情・避妊歴プロゲステロン使用歴。
  • 食欲・体重・飲水/尿量の変化、持病・内服(サプリ含む)。