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症例報告:膝蓋骨脱臼(パテラ)






症例報告:膝蓋骨脱臼(パテラ)

【症例報告】手術がゴールじゃない。ご家族との二人三脚で乗り越えた、あるワンちゃんの膝蓋骨脱臼(パテラ)の話

こんにちは。さだひろ動物病院です。

今回は、特に小さなワンちゃんに多い「膝蓋骨脱臼(パテラ)」と懸命に闘った、あるご家族の物語をご紹介します。

「手術をすれば、また元気に走れるようになりますか?」

診察室で、私たちはこの質問をよくお受けします。その答えは…「手術だけでは、十分ではないんです」。今回は、まさしくその言葉を体現するような、困難を乗り越えた若齢のポメラニアンのわんちゃんの治療記録です。

始まりは「いつもと違う歩き方」

当院にやってきたのは、まだ若く元気いっぱいのポメラニアンのわんちゃん。ですが、右後ろ足をかばうような、少し不自然な歩き方をしていました。
診察の結果は「グレード3」の膝蓋骨脱臼。膝のお皿が常に外れてしまっている状態で、痛みも伴います。

ご家族の皆様は、ここでいくつかの難しい選択を迫られることになります。

  • 内科治療のリスク: 痛み止めのお薬(例えばプレビコックスなど)で症状を和らげる方法もありますが、長く飲み続けると腎臓などに負担がかかり、膝以外の問題を引き起こす可能性があります。
  • 放置するリスク: グレードがさらに進行し骨の変形が進むと、「骨切り術」という、骨を切って矯正するさらに大掛かりな手術が必要になるかもしれません。これは術後の痛みがとても強くなることが知られています。
  • 手術の範囲と負担: 実は、他の病院様で「両足の手術が必要」と診断された経緯もありました。しかし、若齢とはいえ二度の手術は体への負担が大きく、ご家族の経済的なご負担も考えなければなりません。

私たちはご家族とじっくりと話し合い、「まずは症状が重い右足の手術に集中し、グレードの軽い左足は、リハビリで周りの筋肉を鍛えて支えていこう」という方針をご家族と共に決定しました。

希望の光と、予期せぬ壁

方針が決まり、私たちは手術に臨みました。膝のお皿がはまる溝を少し深くし、特殊な糸で靭帯の代わりを作ってお皿を支える「ラテラルスーチャー(外方縫合術)」という方法です。手術は無事に成功。

これでまた元気に歩けるはず…希望の光が見えた矢先、私たちは予期せぬ壁にぶつかります。
それが、「重度の筋肉萎縮」です。

手術した方の足の筋肉が、みるみる痩せ細ってしまったのです。痛みや違和感からか、ワンちゃんは全く足を使おうとしません。健康な足と比べ、腿の太さは数センチも細くなってしまいました。ご家族の「このまま歩けなくなってしまうのでは…」という不安は、私たちも痛いほど理解できました。

本当の治療の始まり

しかし、本当の戦いはここからでした。
私たちは「手術はゴールではなく、回復へのスタートです」とお伝えし、ご自宅でできるリハビリの方法を詳しくご説明しました。

それからのご家族の努力は、本当に素晴らしいものでした。
毎日欠かさず、愛情を込めて優しく足のマッサージを行い、関節が固まらないようにゆっくりと曲げ伸ばしを続ける。その懸命な日々のケアが、眠ってしまっていた筋肉を呼び覚まし、細くなってしまった足に、少しずつ、でも確かに、力を戻していったのです。

そして術後数ヶ月。諦めずにリハビリを続けた結果、ワンちゃんは再び自分の足でしっかりと立ち、今では元気に走り回れるまでに回復してくれました。

この経験から、私たちが伝えたい大切なこと

この素晴らしい回復の一方で、私たちはこの経験から学んだ「忘れてはいけないリスク」について、正直にお伝えしなければなりません。

  • ジャンプは要注意: 今回使った人工の靭帯(糸)は、ソファから飛び降りるなどの強い衝撃で切れてしまうことがあります。そうなると再脱臼だけでなく、「半月板損傷」という、膝のクッションを痛める重い怪我に繋がりかねません。
  • 反対側の足も忘れずに: 今回手術しなかった左足も、軽度の脱臼を抱えています。今後、加齢と共に症状が進む可能性も、心に留めておく必要があります。
  • 関節炎との長い付き合い: 一度脱臼した関節は、手術が成功しても、将来的に関節炎を発症する可能性が非常に高いです。生涯にわたる体重管理や、滑りにくい床にするなどのケアが、とても大切になります。

最後に

膝蓋骨脱臼の治療は、私たち獣医療チームと、何よりもご家族の深い愛情と根気強い努力という「二人三脚」で成り立っています。手術はその一歩にすぎません。その後の生活をどう支えていくかが、その子の未来を大きく左右します。

もし、愛犬の歩き方で気になることがあれば、どんな些細なことでもご相談ください。一緒に最善の道を考えていきましょう。