胸背動脈皮弁(Thoracodorsal Axial Pattern Flap)
要点:胸背動脈を軸にした軸性皮弁。肘〜前腕近位を含む肩甲〜胸壁外側の中~大欠損に有効。皮筋(cutaneous trunci)を皮弁側に温存し、皮筋下で剥離するのが成功の鍵。
肩峰から肩甲棘に沿って背側へ切開。背側正中(棘突起)方向へ追っていき、“ここまで幅が欲しい”ところまで尾側(後方)に切開を延ばす。 肩甲骨後縁の窪みに胸背動脈が皮膚血管として立ち上がる部分があるのでここの血流障害に注意。
何に使う?
- 適応部位:肘〜前腕近位、上腕外側、肩甲部、腋窩、胸壁外側の中〜大きめの皮膚欠損。

- 強み:胸背動脈(thoracodorsal a.)を軸とする軸性皮弁で末梢まで血流が安定。単純な進展・回転皮弁では届きにくい肘部欠損にも到達。
- 例:肘の腫瘍切除後(約4×5 cm)欠損への再建に使用。

解剖と設計の基礎
- 血管軸:胸背動脈/静脈(腋窩動脈 → 肩甲下動脈 → 胸背動脈)。
- 走行:広背筋内を走行し、皮筋(cutaneous trunci)を介して皮膚へ穿通。
- Pivot point(回転中心):肩峰(肩甲後縁〜腋窩付近)。

- 肩甲骨後縁の窪みから胸背動脈が皮膚血管として立ち上がる。ねじらない/絞めないことが生命線。

- 皮弁の範囲(目安)
・頭尾方向:肩甲後縁から3–5肋間程度尾側まで安全域。
・背腹方向:背中正中〜肋骨弓近くまでデザイン可。
- 設計のコツ:欠損幅+10–20%の余裕。pivotから受容床までの到達弧をコンパス感覚で確認。皮筋を必ず皮弁側に含める。
手術の流れ(画像の順に対応)
Point(押さえどころ)
- 皮筋(cutaneous trunci)の同定が最重要。胸背部では皮筋が厚く、これを皮弁側へ温存すると血行が安定。
- アンダーマイニングは皮筋の下層で行う(皮下直下や皮筋上の剥離は避ける)。
- 大型犬では皮筋が発達していて広背筋と間違えやすい。
- Pivot付近はペデクルを細くしすぎない/圧迫しない/ねじらない。
- 負荷が強い場合には適宜島状にするのも一アイデア💡
- (CT断面イメージ)皮膚・皮筋・広背筋の層関係を常に意識し剥離層を迷わない。
Pitfall(陥りやすいミス)
- 中〜大型犬で皮膚が厚く可動性が高い → 剥離層誤り(皮筋を捨てる)で末梢壊死・うっ血。
- デッドスペース残存 → 血腫・漿液腫 → 縫合離解。
- 過度な長さ/細いペデクル → 屈曲・血流障害。
- 強い張力閉鎖 → 縫合線離解・フラップ端虚血。
- ドレーン未設置/早期抜去 → 漿液腫(胸背部は特に多い)。
Notes/工夫
- 体位と到達距離:側臥位で設計。重力方向に回転させやすい側を選ぶ。必要なら対側採皮で可動域拡大可。
- 陰圧ドレナージ(J-VAC®):皮弁下のデッドスペース消失・血漿貯留予防に有効。
管理は連続吸引で術後2–3日(〜7日)を目安に排液量・性状で抜去判断。【7日以上の放置で感染】
- VAC療法(NPWT):採皮部や難治性創に併用で密着・滲出管理・肉芽促進に有利。
- 縫合材例:皮下=3-0〜4-0 吸収糸(PDS等)/皮膚=3-0〜4-0 非吸収糸 or 皮内吸収糸。
- 術中チェック:肢位変化(屈伸・外転)で緊張ホットスポットがないか毎回確認。
術後管理
・保護:エリザベスカラー。圧迫包帯は過圧に注意(ペデクル圧迫厳禁)。
・ドレーン管理:排液量・色・陰圧維持を記録。創周囲腫脹はデッドスペース再形成のサイン。
・灌流確認:色調・温度・針刺し出血で末梢灌流を評価。寒冷・圧迫を避ける。
・鎮痛:NSAIDs ± オピオイド。張力強いと疼痛増・離解リスク↑。
・安静:前肢の過伸展/粗暴な歩行を3–5日制限。
・抜糸:通常10–14日、張力部は14–21日。
合併症と対策
- 先端壊死/うっ血:皮筋温存・ペデクル保護・過長回避。疑えば抜糸遅延・局所温罨法。
- 血腫・漿液腫:閉鎖式ドレーン+密着縫合、均等圧包帯。
- 縫合離解:張力分散(マットレス、ステントサッチャー)、歩行制限。
- 感染:十分なデブリドマン。汚染創では二期的閉鎖/VAC併用を検討。
到達範囲・サイズ感の実務メモ
- 到達:肘・上腕外側はほぼ確実。前腕中部は個体差あり。
- 長さ:pivot→肘の弧+数cmの余裕。先細りは避ける(血流低下)。
- 幅:欠損幅+10–20%。ドナーの一次閉鎖が無理なら皮下減張/進展切開を同時計画。
まとめ(超要点)
- 1) 皮筋を温存し皮筋下で剥離。
- 2) Pivotをねじらない(圧迫・細径化を避ける)。
- 3) J-VAC等の陰圧ドレーンでデッドスペースを消す。
- 4) 肢位変化で緊張チェック、無理はしない。
- 5) 術後は灌流・排液・圧迫の3点管理。
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