047-700-5118
logo logo

診察時間
午前9:00-12:00
午後15:00-18:00
手術時間12:00-15:00
水曜・日曜午後休診

banner
NEWS&BLOG
膝蓋骨内方脱臼(パテラ)

わんちゃんの膝蓋骨内方脱臼(パテラ)について

飼い主様、この度はわんちゃんの膝のことでご心配なことと存じます。
ここでは、多くのわんちゃん、特に小型犬で見られる「膝蓋骨内方脱臼(しつがいこつないほうだっきゅう)」、通称「パテラ」について、獣医師がどのような考えで診断し、治療を進めていくのかを詳しくご説明します。専門的な内容も含まれますが、わんちゃんのために一緒に学んでいきましょう。

1. はじめに:膝蓋骨内方脱臼ってどんな病気?

まず、「膝蓋骨」とは、人間でいう「膝のお皿」のことです。このお皿は、太ももの前にある大きな筋肉(大腿四頭筋)の力が、スネの骨(脛骨)に伝わるための「滑車(かっしゃ)」のような大切な役割を担っています。「膝蓋骨内方脱臼」とは、この膝蓋骨が、本来あるべき太ももの骨の溝から、内側に外れてしまう状態のことを言います。

  • 原因: 主に、生まれつきの骨格の形成に原因があります。特に小型犬では、成長期に骨の形成に異常が生じ、その結果、太ももの筋肉が膝蓋骨を引っ張る方向がまっすぐにならず、内側に外れやすくなってしまうのです。遺伝的な要因が強く示唆されていますが、どの遺伝子が原因かはまだ特定されていません。
  • 発生率: 膝蓋骨脱臼と診断された小型犬の82%が、成長期に発症しています。そして、その脱臼の実に98%が内側に外れる「内方脱臼」です。まれに外側に外れる「外方脱臼」もあり、特に大型犬では重度の関節炎につながることがあるため注意が必要です。

2. 診断:どうやって見つけるの?

診断は、主に獣医師による「触診」と「X線検査」を組み合わせて行います。

① 触診(しょくしん)
獣医師が実際にわんちゃんの膝を丁寧に触って、以下の点を確認します。

  • 膝蓋骨が外れるか、どのくらい簡単に外れるか、そして自然に戻るか。
  • 膝蓋骨を動かした時に「ゴリゴリ」「ジャリジャリ」というような、軟骨がすれる感触や音(捻髪音:ねんぱつおん)がないか。もしこの感触があれば、すでに関節の軟骨が傷ついている可能性があります。
  • 正確な診断のため、わんちゃんには横になってもらい、太ももの筋肉の力を抜いたリラックスした状態で行うことがとても重要です。

この触診の結果、脱臼の程度を4段階で評価します。これは今後の治療方針を決める上で非常に重要な分類です。

  • グレード1: 普段は正常な位置にありますが、指で押すと脱臼します。しかし、指を離すと自然に元の位置に戻ります。
  • グレード2: 時々、歩いている時などに自然に脱臼しますが、足を曲げ伸ばししたりすると自然に元の位置に戻ります。
  • グレード3: 常に脱臼したままの状態ですが、指で押すと一時的に元の位置に戻すことができます。
  • グレード4: 常に脱臼したままで、指で押しても元の位置に戻すことができません。

② X線検査
X線を撮影することで、以下のことを客観的に評価します。

  • 膝蓋骨が正しい位置からずれていることの確認。
  • 膝蓋骨がはまる、太ももの骨の溝(大腿骨滑車溝)が、生まれつき浅くなっていないか。
  • 太ももの骨やスネの骨が曲がったり、ねじれたりしていないか。
  • 中年齢以上のわんちゃんでは、痛みの原因が「前十字靭帯断裂」という別の病気ではないか、あるいは併発していないかも注意深く確認します。

3. 治療方針:どうやって治すの?

治療には、手術をしない「保存療法」と、手術をする「外科療法」があります。

① 保存療法(手術をしない治療)

  • 対象: 症状がない、または非常に軽い場合や、何らかの理由で手術ができない場合に選択されます。
  • 内容:
    • 運動制限、減量: 膝への負担を減らすことが最も重要です。特に肥満のわんちゃんは、減量だけで症状が劇的に改善することもあります。
    • 生活環境の改善: フローリングなどの滑りやすい床は、脱臼を悪化させる大きな原因です。カーペットを敷く、ジャンプや急な方向転換をさせない、などの工夫が必要です。
    • お薬: 痛みがある場合は、痛み止めのお薬(NSAIDsなど)を1~2週間ほど使って炎症を抑えます。

② 外科療法(手術による治療)

保存療法で改善しない、痛みが続く、跛行(びっこ)がひどい、成長期でグレードが進行している、などの場合には手術が推奨されます。
手術の目的は、「膝蓋骨が二度と外れないように、膝周りの構造を根本的に作り直すこと」です。そのため、単一の方法ではなく、わんちゃんの状態に合わせて以下の複数の手技を組み合わせて行います。

A. 軟部組織(筋肉や関節包など)へのアプローチ

  • (1) 関節包・支帯の縫縮: 脱臼とは逆側(内方脱臼なら外側)の、緩んでしまった関節の袋や靭帯を縫い縮めて、膝蓋骨をしっかりと支えるようにします。
  • (2), (3) 縫合による補強: 特殊な糸のかけ方で、膝が内側にねじれるのを防いだり、膝蓋骨を外側から引っ張るように補強したりします。
  • (4) 筋肉の切離: 脱臼側にあり、硬く縮んでしまった筋肉(内側広筋など)の一部を少し切開し、膝蓋骨を引っ張る力を和らげます。

B. 骨へのアプローチ

  • (1) 造溝術(ぞうこうじゅつ): 膝蓋骨がはまる太ももの骨の溝が浅い場合に、この溝を深く彫り直して、膝蓋骨がしっかりと収まるようにする手術です。現在では、表面のツルツルした大切な関節軟骨を温存する方法(楔状/ブロック状造溝術)が主流です。
  • (2) 脛骨粗面転植術(けいこつそめんてんしょくじゅつ): これが膝蓋骨脱臼の手術で最も重要な手技の一つです。膝蓋骨から伸びる靭帯が付着している、スネの骨の出っ張り(脛骨粗面)を一度骨ごと切り取り、正しい位置(内方脱臼なら少し外側)に移動させて、2本の金属製のピンなどで固定し直します。これにより、太ももの筋肉が膝蓋骨を引っ張る方向がまっすぐになり、脱臼の根本的な原因を矯正します。

手術後は、炎症を抑えるために3日間ほど患部を冷やし、むくみを防ぐために7日間ほど包帯を巻きます。

4. お薬の処方例(専門的な内容)

保存療法や術後の痛み止めとして使われるお薬の一例です。これはあくまで一般的な例であり、実際の処方量や種類は、わんちゃんの体重や健康状態によって獣医師が責任をもって判断します。


お薬の名前: ロベナコキシブ(商品名:オンシオール®

種類: 痛みや炎症を抑えるお薬(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDs)です。

投与量(1日1回、経口投与):

  • 体重 2.5kg以上 5kg未満: 5mg錠を1錠
  • 体重 5kg以上 10kg未満: 10mg錠を1錠
  • 体重 10kg以上 20kg未満: 20mg錠を1錠
  • 体重 20kg以上 40kg未満: 40mg錠を1錠
  • 体重 40kg以上 80kg未満: 40mg錠を2錠

注意点: 体重1kgあたり1mgが基準量です。お食事の直前・直後30分は避けて飲ませてください。

5. 手術後の経過と予後

  • 手術が成功すれば、多くのわんちゃんは運動機能を大きく改善させることができます。
  • ただし、手術前の時点で軟骨のすり減りが激しかった場合は、将来的に変形性関節症(関節炎)が進行し、痛みが残る可能性があります。
  • また、膝蓋骨脱臼のわんちゃんは、数年後に前十字靭帯断裂という別の膝の病気を発症することがあるため、術後も定期的なチェックが大切です。
  • 脛骨粗面転植術で使ったピンは、骨がしっかりくっついた後、もしくは緩みなどが見られた場合に抜去することがあります。

6. 覚えておきたい大切なポイント

  • 膝蓋骨外方脱臼は、重度の関節炎に移行する場合があります。
  • 膝蓋骨内方脱臼は、太ももとスネの骨の骨格的なズレが原因で起こります。
  • 治療は、複数の手術手技を組み合わせて、総合的に膝の構造を整える必要があります。
  • 前十字靭帯断裂という別の病気を併発することがあるので注意が必要です。

【補足】最近の獣医療の進歩について(2020年以降の動向)

上記のガイドブックの内容は現在でも治療の基本ですが、獣医療は日々進歩しており、特に重症例に対する考え方がより深まっています。

より精密な診断へ:CT検査の活用

近年、従来のX線検査に加えてCT検査を行うことが増えてきました。CTでは骨の形を3Dで立体的に見ることができるため、X線では分かりにくい太ももの骨の「ねじれ」まで正確に評価できます。これにより、よりその子に合った、ミリ単位での精密な手術計画を立てることが可能になっています。

より根本的な治療へ:骨格矯正手術の発展

特にグレード3~4の重症例では、太ももの骨(大腿骨)自体が内側に大きく曲がっていることが脱臼の根本原因であるケースが少なくありません。そのような場合、従来の手術だけでは矯正が不十分なことがありました。
そこで最近では、曲がってしまった太ももの骨を一度切り、まっすぐに矯正してから金属のプレートで固定するという、より大がかりで根本的な治療(大腿骨遠位骨切り術:DFO)が積極的に行われるようになっています。これは高度な技術を要しますが、重度の骨格変形があるわんちゃんの再脱臼のリスクを大幅に減らし、長期的な生活の質を向上させることが期待されています。


長い説明になりましたが、これがわんちゃんの膝蓋骨内方脱臼の全体像です。わからないことやご不安な点があれば、どんな些細なことでもかかりつけの獣医師にご相談ください。わんちゃんがまた元気に走り回れるように、一緒に最適な治療法を見つけていきましょう。