診察時間
午前9:00-12:00
午後15:00-18:00
手術時間12:00-15:00
水曜・日曜午後休診
眼は健康を映す窓。動物たちにとって、眼は世界を認識し、快適な生活を送る上で欠かせない重要な器官です。視覚や眼の快適性は、彼らの生活の質(QOL)に直結します。また、眼の異常は単なる眼の問題にとどまらず、時には全身の健康状態を示すサインとなることもあります。
本稿では、獣医療の現場で遭遇する機会が多く、かつ診断・治療の遅れが視力喪失や深刻な苦痛につながりかねない3つの眼科疾患、すなわち
角膜潰瘍、
緑内障、
ぶどう膜炎に焦点を当てます。これらは、その影響の大きさから、獣医師が初回の診察で見逃したくないと考える代表的な疾患です。
角膜は、眼球の一番前にある、黒目(虹彩)を覆っている透明な膜です。光を目の中に取り入れる「窓」のような役割と、入ってきた光を屈折させてピントを合わせるレンズのような役割を担っています。健康な犬や猫の角膜は完全に透明で、血管や色素は見えません。この透明な窓が傷ついてしまうのが角膜潰瘍です。
角膜潰瘍とは、何らかの原因で角膜に傷がつき、その表面がえぐれてしまった状態を指します。傷の深さによって、表面に近い層(角膜上皮層)だけの浅いもの(表在性)と、より深い層(角膜実質層)まで達している深いもの(深在性)に分けられます。特に深い潰瘍を放置すると、角膜に穴が開いてしまう角膜穿孔という非常に危険な状態になることがあります。角膜穿孔は眼の中身が出てしまう可能性があり、失明につながる緊急事態です。
詳細な問診・視診後、フルオレセイン染色で傷の有無・大きさを確認。
浅い潰瘍は数日~1週間で治癒が多いが、深刻例は失明リスク。定期診察を必ず受けること。
非潰瘍性角膜炎、角膜ジストロフィー・変性、分離症、好酸球性角膜炎、腫瘍などを除外。
反射性ぶどう膜炎、二次感染、瘢痕、継発緑内障、眼球癆。三叉神経刺激によるぶどう膜炎併発に注意し、散瞳薬・抗炎症薬も併用。
緑内障は、眼内圧(眼圧)が異常に高くなる病気です。持続する高眼圧で視神経が圧迫され、失明に至ります。強い痛みを伴うことが多く、動物にとって非常につらい病気です。
房水という液体が産生と排出で眼圧を保っていますが、出口が詰まると排出不全となり眼圧上昇をきたします。
発症後数時間~数日で不可逆的な視力喪失が起こるため、速やかな受診が必須です。
眼圧計でIOP測定が基本。高眼圧持続で緑内障診断。
対側眼も発症リスク高いため定期IOP測定、隅角検査推奨。
視神経乳頭損傷、RGCアポトーシスが不可逆的視力喪失を導く。主要ターゲットはIOP上昇抑制。房水動態は従来経路と副経路で制御。
生涯定期IOP測定、対側眼隅角検査、薬剤調整。再発・対側眼発症の教育が不可欠。
ぶどう膜炎は、虹彩、毛様体、脈絡膜からなるぶどう膜に炎症が起こる病気です。眼だけでなく、全身疾患のサインとなることもあります。
感染症、自己免疫、外傷、腫瘍、全身疾患、特発性など多様な原因があります。
スリットランプ検査、眼圧測定、全身検査(血液・尿・画像)で原因検索。
再発、続発緑内障・白内障予防のため定期診察必須。目周囲の清潔も重要。
早期診断・原因治療が予後を決定。ぶどう膜炎は全身疾患スクリーニングが鍵。
緑内障や深い角膜潰瘍は、治療開始の遅れで不可逆的失明のリスク。速やかな動物病院受診が最善策です。
目を細める、赤み、増えるまばたき、物にぶつかる、少し元気がない等、小さな変化でも受診を。
症状がなくても定期的な健康診断で初期発見の機会となります。高リスク犬種、中高齢犬猫は特に。
残った過去処方の点眼薬や人間用目薬は獣医師指示なく使用せず。状態悪化リスク大。
特徴・サイン | 角膜潰瘍 | 緑内障 | ぶどう膜炎 | 飼い主がすべきこと |
---|---|---|---|---|
痛み・しょぼつき | 軽度〜重度 | しばしば重度 | 中等度〜重度 | 症状があれば早めに受診 |
充血 | 表面的〜全体的赤み | 全体的赤み・太い血管 | 深い赤み〜全体的赤み | 赤み強い、続く場合は受診 |
角膜透明度 | 正常or部分白濁・へこみ | 全体白濁・青み(浮腫) | 表面透明、内部もやり | 濁りがあれば早めに受診 |
瞳孔サイズ | しばしば小さい | しばしば大きい・反応鈍い | しばしば小さい | 左右差や反応鈍いなら受診 |
視力 | 通常正常(大潰瘍は低下) | 急激低下・失明 | 低下することも | 急に見えないなら緊急受診 |
目やに | 水様〜膿性 | 水様or少量 | 水様or少量 | 膿性なら早めに受診 |
緊急度 | 緊急(深潰瘍特に) | 超緊急 | 緊急 | 緑内障疑いは即受診 |
注:個体差や併発例あり。少しでも異常を感じたら受診を。
本ガイドは飼い主への啓発資料として利用できますが、飼い主教育では速やかな受診の重要性と病態の解説を重視してください。診療では短時間での眼科検査(染色、IOP測定、スリットランプ)を徹底し、迅速な治療介入を行う体制を整えましょう。
愛犬・愛猫の眼の健康を守るためには、日頃からの注意深い観察が何より重要です。目をしょぼつかせる、赤くなる、濁る、物によくぶつかるなどのサインに気づいたら、決して自己判断せず、速やかに動物病院を受診してください。特に緑内障のように、治療までの時間が視力の明暗を分ける病気もあります。早期発見・早期治療が、大切な家族の一員であるペットの視力と快適な生活を守るための最も確実な方法です。
角膜潰瘍、緑内障、ぶどう膜炎はいずれも迅速な診断と治療介入が求められる疾患です。染色検査、眼圧測定、スリットランプ、眼底検査を迅速に行い、必要に応じて細胞診、培養、画像診断、全身スクリーニングを駆使して正確に病態を把握してください。各疾患は相互に関連することもあります。病態生理に基づいた最適な内科・外科アプローチを選び、続発症管理にも注意を払うことで、良好な予後を実現できます。
角膜潰瘍、緑内障、ぶどう膜炎は、動物の視覚とQOLに対する重大な脅威となり得ます。しかし、飼い主による日々の観察と、獣医療従事者による専門的知識・技術に基づく迅速かつ的確な対応によって、その影響を最小限に抑え、良好な予後を得ることは十分に可能です。本稿が、その一助となることを願います。