診察時間
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シニア期を迎えた動物たち、特に10代半ばを超えた猫ちゃんの診療では、一つの病気だけを見ていれば良いということは稀です。
体の中にいくつかの「爆弾」を抱えながら、それでも「今日」という一日を穏やかに過ごすために、私たち獣医師と飼い主様は、時に非常に難しい決断を迫られます。
今回は、14歳の猫ちゃん(Aちゃん)の実例を通じ、「相反する3つの難病」に対してどのように優先順位をつけ、生活の質(QOL)を守り抜いているか、その戦略的な治療選択についてお話しします。
完治を目指す「足し算」の治療ではなく、その子にとっての苦痛を回避する「引き算」の治療を選択することで、統計的な余命を超えて穏やかな時間を過ごしている実例です。
Aちゃんの体には、それぞれ性質の異なる3つの病気が同居していました。
これらは単独でも厄介ですが、組み合わせることで治療の方針が互いに邪魔をし合う、非常に複雑な状況を生み出しています。
ここで私たちは大きな壁にぶつかりました。それぞれの病気の「教科書通りの治療」が、矛盾してしまうのです。
八方塞がりに見える状況で、私たちは「遺伝子検査」という武器を使いました。
がん細胞の遺伝子を詳しく調べた結果、Aちゃんのがんは「c-kit遺伝子のExon 8」という場所に変異があることがわかったのです。
これは治療戦略上、決定的な意味を持ちます。
このタイプの変異には、「分子標的薬」という特定のお薬が劇的に効く可能性が高いからです。
【私たちが導き出した治療プラン】
この戦略的な選択の結果、Aちゃんは脾臓摘出から1年半以上経った今も、お家で穏やかに過ごしています。
内臓への転移がある状態でこれほど長く良い状態を維持できているのは、統計的なデータを良い意味で裏切る「ボーナスタイム」と言えます。
高齢期の治療における「正解」は、病気をゼロにすることではありません。
詳細な検査によって病気の正体を暴き、「愛猫にとって一番苦痛なこと(激痛や吐き気)」を先回りして取り除いてあげること。
完治はしなくても、痛みなく、大好きな飼い主様の隣で眠れるなら、それは十分に「成功した治療」と言えるのではないでしょうか。
「全てを治療する」のではなく、「その子の生活を守るために、何を選び、何をしないか」。
その戦略的な判断こそが、シニア期の動物たちへの最大のプレゼントになると、私は考えています。