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緑内障を正しく理解し、愛犬を守ろう!

緑内障の診断と治療

緑内障は、眼圧の上昇により失明を引き起こす可能性がありますので、早期発見と正確な診断、そして適切な治療が必要です。

このブログでは、緑内障の診断と治療について、飼い主の皆さんに分かりやすく説明します。

緑内障の典型的な徴候と特徴

緑内障は、眼圧の急激な上昇により、強い痛みや不快感を引き起こす可能性があります。赤目、角膜浮腫、散瞳などが典型的な徴候です。
発症からの経過時間、飼い主が異常に気づいてからの時間経過は、視覚回復の可能性に大きく影響します。72時間以上経過した場合、視覚回復の可能性は顕著に低下します。なので、早期発見と適切な治療が必要であり、3日以内に動物病院を受診することが視覚維持に重要です。
視覚反応や対光反射、眩目反射(強い光を急に眼に照らした時に眼を細めたり、光から逃げる反射)を用いて視覚の有無を判断します。光源として、当院では手持ち双眼スリットランプの最大光量やアイリスベットを使用しています。この反射が陽性であれば正常、陰性であれば網膜-中枢側の重大な障害を示します。
特に、威嚇瞬目反応が不明瞭な場合や、色素性角膜炎、白内障、緑内障の存在下での視覚の有無の判断に有効です。これらの反応が正常であれば、視覚が存する可能性があります。

緑内障の診断

緑内障の正確な診断には、眼圧測定が必要です。これは、緑内障を客観的に診断できる唯一の方法です。 また、緑内障の症状は特定しづらく、食欲不振や元気がない、嘔吐など非特異的な症状も現れる可能性があります。特に好発犬種や原発緑内障の対側眼では注意が必要です。好発犬種では、眼圧が20 mmHg以上、または対側眼に比べて10 mmHg以上高い場合には特に注意が必要です。
更に、より高度な診断としてぶどう膜炎のチェックや水晶体前方脱臼の確認も行います。これらの診断方法により、緑内障の状態をより正確に把握することができます。
緑内障は、眼圧が40mmHg以上に急激に上昇し、24-72時間継続すると、視覚の回復が不可能になり、続発緑内障の一部を除き、多くの場合で最終的に失明に至ります。そのため、早期に診断し、速やかかつ適切な治療が重要です。

経済的要因と治療の説明

緑内障の治療は進行性であり、基本的に完治は望めません。経済的要因も重要で、抗緑内障薬は一般に高価です。
そのため、治療開始前には、状態と治療方針について丁寧に説明し、治療の意思を確認します。
飼い主様の意向によって、積極的治療を選ばない場合もあります。このため、各治療の目的と期待される結果、潜在的なリスクについての理解が不可欠です。
これらのプロセスを通じて、ペットの健康と飼い主の皆様の意向を最大限尊重します。

犬の緑内障の緊急治療

犬の緑内障に対する緊急治療は、通常、PG関連薬の点眼やマンニトールの静脈内投与を含みます。しかし、これらの治療法には注意が必要です。

犬の緑内障においては、特定の薬物治療の危険性について理解が不足しています。PG関連薬の副作用である縮瞳によって、水晶体が前房内にトラップされ、状態が悪化する可能性があります。また、ぶどう膜炎や眼内出血がある場合、PGは炎症性サイトカインの一つであるため、使用に注意が必要です。血液–房水関門が破綻しているので、眼内へ薬剤が前房内に漏出して眼圧上昇を招く場合があります。

また、浸透圧利尿薬の使用も注意が必要で、動物が脱水状態にある場合や、腎不全や心疾患を有する場合には、状態の悪化を招く可能性があります。

原発緑内障の緊急治療

原発緑内障の緊急治療にはラタノプロスト点眼が用いられます。1-2滴を点眼し、20-30分後に眼圧を測定。必要に応じてこの作業を2-3回繰り返します。それでも眼圧が正常範囲内に下がらない場合、マンニトールを静脈内投与します。

マンニトール静脈内投与
1.0 – 1.5 (2.0) g/kgを15-20分以上かけて静脈内投与します。必要な場合には4時間後に1 g/kgを追加投与します。
これらの方法でも眼圧が正常範囲内に下がらない場合、前房穿刺や外科手術が必要となることがあります。

ぶどう膜炎と水晶体内方脱臼による続発緑内障の緊急治療

ぶどう膜炎と水晶体前方脱臼は続発緑内障の原因となりえます。

この状態では、原因となる疾患の治療と積極的な消炎治療が必要です。ステロイドが適用できない場合は、NSAIDsを全身投与します。また、ピロカルピン点眼、PG関連薬の点眼、浸透圧性利尿薬の投与は避けるべきです。
原因となる疾患の治療
・積極的な消炎治療: ジフルプレドナート点眼液 1日4回、コハク酸メチルプレドニゾロン 10-15mg/kg、IV。ステロイドが適用できない場合はNSAIDs全身投与。
・炭酸脱水酵素阻害薬の点眼: ブリンゾラミド、1-2%ドルゾラミド点眼液 (まずは1日4回)。
通常、ピロカルピン点眼、PG関連薬の点眼、浸透圧性利尿薬の投与は避けるべきです。

水晶体内方脱臼による続発緑内障の緊急治療

水晶体前方脱臼による続発緑内障では、炭酸脱水酵素阻害薬の点眼とマンニトールの静脈内投与が必要です。消炎のためにジフルプレドナート点眼液やジクロフェナク点眼液を1日4回使用します。これらの治療の後、水晶体摘出術や緑内障手術の実施を検討します。

ここでも、縮瞳作用を有する点眼薬の使用は避けるべきです。
水晶体前方脱臼による続発緑内障の緊急治療
1. 炭酸脱水酵素阻害薬の点眼
ブリンゾラミド、1%ドルゾラミド点眼液 (まずは1日4回)
2. マンニトールIV(1.0-1.5 g/kg、15-20分以上かけて) 3. ジフルプレドナート点眼液 and/or
3.ジクロフェナク点眼液 を1日4回(消炎点眼) →以降の水晶体摘出術+緑内障手術の実施を検討

通常はピロカルピン点眼、PG関連薬やβ遮断薬の点眼といった縮瞳作用を有する点眼を使用しません。

犬の緑内障の外科治療戦略

長期の視覚維持を期待する場合には、外科手術がより効果的です。視覚と眼圧維持のための外科治療として、チューブシャント手術やレーザー毛様体凝固術を実施しています。これにより、眼内から結膜下への房水流出路を作成し、眼圧の安定を図ります。

長期の視覚維持を期待する場合には外科手術がより効果的です。
当院で実施可能な視覚と眼圧維持のための外科治療
・チューブシャント手術
眼内から結膜下への房水流出路を作成
Ahmed Glaucoma Valve (AGV)
エクスプレス
・レーザー毛様体凝固術
1)眼内視鏡
2)経強膜
(※マイクロパルス:未対応)
Ahmed Glaucoma Valve(AGV)
長所:
比較的術後の眼圧は安定している。
術後の低眼圧を生じない。
(低眼圧→ぶどう膜炎→チューブが詰まり眼圧上昇)
8-12mmHgでバルブが開き眼房水が眼外へ流出。
短所:
高価、2014年から国内でも販売されている。
それでもやはりチューブが詰まることがある。
バルブ本体が大きく異物感が生じる可能性。

Ahmed Glaucoma Valve (AGV)は、術後の眼圧が安定し、低眼圧を生じない特長があります。8-12mmHgでバルブが開き眼房水が眼外へ流出します。ただし、バルブ本体が大きく、異物感が生じる可能性やチューブが詰まる可能性もあるため、適切な選択と管理が重要です。

緑内障の内科的治療

緑内障の発生は、眼内の水分が過剰に蓄積し、それによって眼圧が上昇することが原因とされています。これに対して、複数の治療薬が存在します。

1. 眼房水の産生を抑える薬:
αβ遮断薬(ニプラジロール) 、β遮断薬(チモロールなど) 炭酸脱水酵素阻害薬(トルソプト、エイゾプト)などで、これらは毛様体からの房水産生を抑制します。

2. 眼房水の排出を促進する薬:
眼房水の排出を促進する PG関連薬(ラタノプロストなど)、イオンチャネル開口薬、 ピロカルピン、グラナテックなどがあります。これらは房水の排出を促進します。

3.PG関連薬(ラタノプロスト):
イヌでは効果が大きく、原発緑内障の第一選択薬とされています。効果発現が早く、緊急薬として 30分程度で眼圧降下します。この薬は、ぶどう膜強膜路からの房水排出を促進しますが、ぶどう膜炎や水晶体前方脱臼がある場合には使用しないことが推奨されます。副作用として、縮瞳、ぶどう膜炎を誘発、虹彩色の暗色化があります。

4.炭酸脱水酵素阻害薬:
ダラナイド、メサゾラマイド、アセタモックス などで、毛様体からの房水産生を抑制し、緩徐に効果が発現します。獣医領域では1-2%を使用しており、他剤と併用すること多いです。予防薬としても使用されています。点眼後の刺激や、眼瞼皮膚炎を引き起こす可能性があります。副作用として代謝性アシドーシス、低K血症があります。

5.β遮断薬:
マレイン酸チモロール、カルテオロール、 デタキソロールなどで、毛様体のβ受容体遮断により、房水産生を抑制します。効果が緩徐であり、は毛様体のβ受容体が少ないイヌ、ネコでは使用には注意が必要です。対側眼の予防目的に使用されています。停留時間を長くするためのゲル化剤(TG,XE)があります。副作用として、徐脈、不整脈、房室ブロック、気管支収縮が報告されています。

抗緑内障薬:その他の薬

ニプラジロール:α1β遮断し、神経を保護する作用があり、房水の産生を抑えます。β遮断薬と同様の副作用があります。

ジプベフリン:交感神経を刺激し、線維柱帯流出路を促進します。副作用として、過敏症や心悸亢進が報告されています。

ブリモニジンとピロカルピン:これらも房水の流出を促進し、眼圧を下げる効果があります。
・ブリモニジン
α2刺激薬、房水産生抑制+ぶどう膜強膜流出路促進
・ピロカルピン
副交感神経刺激薬、縮瞳作用により線維柱帯流出路を促進

リパスジル:最も新しい緑内障薬で、Rhoキナーゼを阻害し、眼房水の流出を促進します。
最も新しい緑内障薬、Rhoキナーゼ阻害薬通常の眼房水の流出経路からの流出促進により 眼圧を下げます。

イソプロピルウノプロストン:イオンチャネルを開き、線維柱帯流出路を促進します。
イオンチャネル開口薬、線維柱帯流出路を促進 以前はPG関連薬とされていました。
これらの薬剤を含む合剤も存在し、例えばPG関連薬とマレイン酸チモロールの組み合わせ薬や、炭酸脱水酵素阻害薬とマレイン酸チモロールの組み合わせ薬があります。

合剤
・PG関連薬+マレイン酸チモロール
・ザラカム配合点眼液、デュオトラバ配合点眼液、 タプコム配合点眼液
・炭酸脱水酵素阻害薬+マレイン酸チモロール
・コソプト配合点眼液、アゾルガ配合点眼液
・ドルモロール点眼液

失明した緑内障眼に対する治療

失明が確定した緑内障眼には、治療の目的は主に疼痛緩和と症状の管理です。特に急ぐ必要はなく、手術や投薬を通じて患者の不快感を軽減します。

治療目的は治療の終了と眼球腫大による露出性角膜炎の抑制、疼痛緩和であり、疼痛や不快感の緩和のための投薬を行います。

失明に至った緑内障眼に対する手術
・眼球摘出術
外見の問題がありますが、確実に問題を解決できます。

・強膜内シリコンボール移植術
ある程度の外見を維持しつつ、緑内障の問題解決が可能 であるが、眼表面および眼周囲組織の疾患に対する対応が必要である。

・硝子体内ゲンタマイシン注入術
最小限の麻酔で可能ですが、確実性に欠けることがあります。

まとめ

緑内障は一度発症すると、多くの場合、完治は難しく最終的には失明に至ります。初期段階での適切な診断と治療が重要で、視覚維持のための外科手術も選択肢として考えられます。失明に至った場合には、適切な管理と治療を検討し、飼い主様と共に最良の治療法を選ぶ必要があります。