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肥満細胞腫

肥満細胞腫とは?

肥満細胞腫は、肥満細胞(免疫やアレルギー反応に関わる細胞)が腫瘍化したものです。皮膚型は主に犬に見られ、内臓型は猫に多く発生します。

  • 皮膚型: 犬の皮膚に最も多く見られる腫瘍。多くの場合、孤立した結節として発生するが、複数同時に発生することもある。
  • 内臓型: 猫の脾臓や消化管に多く見られ、食欲不振や嘔吐、下痢などの消化器症状を引き起こす。

症状

肥満細胞腫は、肥満細胞が刺激を受けてヒスタミンやヘパリンなどを放出することで様々な症状を引き起こします。これにより、腫瘍随伴症候群が発生し、予防および対応が必要です。

  • 皮膚型: 孤立性の結節や多発性の病変が見られ、胃・十二指腸潰瘍メレナ(黒色便)ヒスタミンショックダリエ徴候が現れる。
  • 内臓型: 小腸で発生し、食欲不振や嘔吐、下痢などの消化器症状が見られる。

診断

肥満細胞腫の診断には、腫瘤の大きさを測定し、細胞診(細針吸引:FNA)を行います。

治療

肥満細胞腫の治療には外科療法、化学療法、放射線療法があり、それぞれの治療法に応じたケアが必要です。放射線療法は二次施設に紹介します。外科手術が第一選択となり、局所治療が主軸です。

Grade1の皮膚肥満細胞腫では、2年生存率はほぼ100%。複数の皮膚肥満細胞腫があっても、1年生存率は85%と良好です。転移率はわずか15%。複数の皮膚肥満細胞腫が認められる場合にも積極的な外科手術が推奨されます。

  • グレード1: 悪性度が低く、完全に切除できれば追加の治療は不要。
  • グレード2: 中程度の悪性度で、肝臓や脾臓、リンパ節への転移に注意が必要。
  • グレード3: 高悪性度で再発の可能性が高く、大きな範囲を切除する必要があり、術後10日〜14日で抗がん剤による補助療法を開始します。

外科療法

肥満細胞腫の手術では、腫瘤の切除を行います。術前には抗ヒスタミン薬を投与し、術中や術後の合併症を抑えます。

腫瘍切除の基準

  • 3cm未満で悪性度が低い場合: 腫瘍から2cmの幅と筋膜1枚を切除。
  • 3cm以上の場合: 腫瘍から3cmの幅と筋膜1枚を切除。
  • 発生部位にて確実なマージン切除が難しい場合、断脚手術や広範囲の切除が必要になることがあります。

    皮膚縫合が難しい場合には減張切開や皮膚皮弁術、ドレーン設置の選択をすることがあります。

    脾臓や消化管に発生した場合、脾臓の摘出や消化管の一部切除を行います。手術前後に低血圧に注意します。

    腫瘍の播種を防ぐため、腫瘍摘出を終えたら、器具とグローブはすべて交換して、縫合閉鎖を行います。

化学療法の効果と治療法

肥満細胞腫に対する化学療法は感受性が低く、プレドニゾロンを含む多剤併用療法が推奨されます。

高度な肥満細胞腫の治療

グレード3の肥満細胞腫の場合、手術だけでの完治は難しく、イマチニブトセラニブ(商品名:パラディア)などの分子標的薬を使用します。これらの薬はがん細胞に特異的に作用し、副作用を抑える効果がありますが、1カ月程度で耐性ができる可能性もあります。当院では治療前に遺伝子検査(c-kit遺伝子検査)を行い、治療効果を事前に評価しています。

以下の場合に抗がん剤治療を行います:

  • 切除困難な場合(マージン不十分な場合)
  • 転移が認められる場合
  • 組織学的グレードが高い場合(グレード3、またはグレード3に近いグレード2
  • ネオ・アジュバンド化学療法として(外科手術に先行する化学療法、外科手術困難時に検討)

殺細胞性の抗がん薬の投与と管理

殺細胞性の化学療法では、ビンブラスチンロムスチン(またはニムスチン)などの抗がん薬を使用します。これらの薬は腸や骨髄に強い影響を与えます。

投与後の管理

抗がん薬の投与後、消化器毒性は通常2〜3日で現れ、数日で消失します。脱毛は稀ですが、場合によっては髭や眉毛が抜けることもあります。ニムスチンやビンブラスチンは骨髄抑制が強く現れるため、投与1週間後に血液検査を行い、特に白血球数と好中球数を確認することが重要です。また、自宅での体温測定も推奨されます。

化学療法時のケア

ビンブラスチンは静脈内投与の抗がん薬ですが、血管外漏出が生じると組織壊死を引き起こします。投薬時には留置針を設置した肢が曲がらないように保護し、抗がん薬投与時には保定者も対暴露策を行います。

また、抗がん薬は体内で代謝された後、尿や便、嘔吐物などに排泄されるため、投薬後1〜2日間は手袋を装着して排泄物を処理するなどの曝露対策が必要です。ロムスチン、イマチニブ、トセラニブは経口薬であり、手袋を装着して確実に投薬を行います。

緩和ケアと予後

がんを患った動物の多くは、がんの増殖を抑えることが難しくなります。肥満細胞腫の場合、再発や脾臓、肝臓、腹腔内のリンパ節への転移が認められ、全身状態が悪化します。

犬の肥満細胞腫の予後は、腫瘍のグレードや治療の進行状況によって異なります。グレード3の肥満細胞腫や消化管に発生した肥満細胞腫、骨髄浸潤を伴う場合は予後が悪いです。

概要

パグは肥満細胞腫がよく発生する犬種の一つです。他にもレトリバー種や柴犬が肥満細胞腫にかかりやすい犬種として知られています。パグの場合、複数の肥満細胞腫が発生しやすいですが、多くは良性の挙動を示します。

予後に影響する要因

腫瘍の大きさ核分裂指数が予後を左右します。肥満細胞腫の発生個数は、予後に直接的な影響を与えません。

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