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【コラム】犬が斜めに傾くときに考えられる疾患と対応策:前庭疾患や脳の問題を徹底解説

今回は、犬が斜めに傾いたり、頭を傾けたりする症状について、その原因や対応策を詳しくお話しします。特に、嘔吐を伴う場合や、経済的な負担を考慮した検査・治療の進め方についても触れていきます。

犬が斜めに傾く主な原因

犬が斜めに傾く症状には、いくつかの原因が考えられます。代表的なものを挙げてみましょう。

1. 前庭疾患(ぜんていしっかん)

前庭疾患は、犬のバランス感覚や空間認識を司る前庭系に異常が生じる疾患です。これにより、犬はふらつきや頭の傾き、嘔吐などの症状を示すことがあります。

主な症状:

  • 頭を一方向に傾ける(頭部傾斜)
  • 歩行時にバランスを崩し、倒れそうになる(ふらつき)
  • 目が横や縦に素早く動く(眼振)
  • 嘔吐や吐き気
  • 同じ方向にぐるぐると回るように歩く(円運動)

原因:

  • 末梢性前庭疾患: 内耳や前庭神経の異常
    • 特発性前庭疾患(原因不明で突然発症、高齢犬に多い)
    • 中耳炎・内耳炎(耳の感染症)
    • 外傷や薬物中毒
  • 中枢性前庭疾患: 脳幹や小脳の異常
    • 脳腫瘍
    • 脳炎・脳膜炎
    • 脳血管障害

2. 脳の問題

脳炎や脳腫瘍、脳梗塞などの脳の疾患もバランス感覚に影響を与え、斜めに傾く症状が出ることがあります。嘔吐が続く場合や、他に異常な行動が見られる場合は注意が必要です。

3. 中耳炎や内耳炎

耳の感染が原因で平衡感覚に影響が出ることがあります。外からは見えない場合も多いため、耳の検査が重要です。

セカンドオピニオンを求められた場合の対応

飼い主さんから他院で診断を受けた後、セカンドオピニオンを求められることがあります。その際の対応ポイントをまとめます。

1. 前回の診療情報の収集

  • 他院での診断結果、検査データ、処方された薬の情報を持参してもらうようお願いしましょう。

2. 詳細な問診と身体検査

  • 症状の始まりや経過、嘔吐の頻度や状況、食欲や活動性の変化など、詳細な情報を聞き取りましょう。
  • 神経学的な検査や耳の検査を通じて、異常を確認します。

3. 必要な追加検査の提案

  • 血液検査、画像診断(X線、超音波、CT、MRI)、耳の詳しい検査などを検討します。

4. 鑑別診断の検討

  • 前庭疾患(末梢性か中枢性か)、中耳炎・内耳炎、脳の疾患など、可能性のある疾患を広く検討します。

5. 飼い主さんへの丁寧な説明と相談

  • 現在の状況や考えられる原因、今後の検査・治療方針について、わかりやすく説明します。
  • 飼い主さんの不安や疑問に対して、親身になって対応することが重要です。

6. 他院との連携

  • 必要であれば、前回の診療を行った獣医師と情報交換を行い、最善の治療方針を検討します。

前庭疾患について詳しく

前庭疾患は、犬のバランス感覚に大きく影響します。以下に詳しく説明します。

診断方法

  1. 問診: 症状の出現時期や経過、生活環境などを詳しく聞き取ります。
  2. 身体検査: 神経学的検査を含め、全身状態を評価します。
  3. 耳の検査: 耳鏡を使って耳道や鼓膜の状態を確認します。
  4. 血液検査: 感染症や全身疾患の有無を調べます。
  5. 画像診断: X線、CT、MRIなどで脳や内耳の状態を詳しく調べます。
  6. 脳脊髄液検査: 中枢性の疾患が疑われる場合に行います。

治療方法

  • 支持療法: 嘔吐やめまいの症状を軽減するための薬剤を投与します。
  • 原因療法: 感染症であれば抗生物質、炎症であれば抗炎症剤を使用します。
  • 外科的治療: 腫瘍や重度の中耳炎など、必要に応じて手術を行います。
  • リハビリテーション: バランス機能の回復を促すための訓練を行うこともあります。

予後と管理

  • 末梢性前庭疾患は、多くの場合数日から数週間で改善し、予後は良好です。
  • 中枢性前庭疾患は、原因や治療への反応によって予後が異なり、慎重な経過観察が必要です。
  • 自宅でのケア: 安全な環境を整え、滑りにくい床や転倒防止の対策を行いましょう。

経済的な負担を考慮した検査・治療の案内

飼い主さんの経済的な負担を考慮しながら、効果的な検査や治療を案内するためのポイントです。

1. 優先度の高い検査の選択

  • 詳細な問診と身体検査: 費用のかからない基本的な検査で、症状の原因を絞り込みます。
  • 耳の検査: 耳鏡を使った簡易的な検査で、中耳炎や内耳炎の有無を確認します。
  • 基本的な血液検査: 全身状態を把握するために、最低限の血液検査を提案します。

2. 段階的な検査計画

  • 初期検査から開始: まずは低コストの検査を行い、必要に応じて追加の検査を検討します。
  • 高額な検査は後回し: CTやMRIなどの高額な画像診断は、初期検査の結果や症状の進行状況に応じて検討します。

3. 費用対効果の高い治療法の提案

  • 支持療法の実施: めまいや吐き気を緩和する薬物療法を開始します。
  • 抗生物質の使用: 中耳炎や内耳炎が疑われる場合は、適切な抗生物質を処方します。

4. 飼い主さんへの丁寧な説明

  • 検査・治療の必要性と費用の説明: 各検査や治療の目的、期待される効果、費用を明確に伝えます。
  • 選択肢の提示: 複数の検査や治療オプションがある場合、それぞれのメリット・デメリットを説明し、飼い主さんに選んでもらいます。

5. 自宅でのケア方法の指導

  • 環境整備: 滑りにくい床材の使用や、段差の解消など、家庭でできる対策を提案します。
  • 観察ポイントの伝達: 症状の変化や悪化のサインを伝え、早期に対応できるようにします。

6. フォローアップの計画

  • 経過観察の提案: 状態が安定している場合は、定期的な診察で経過を見守ります。
  • 緊急時の対応方法: 症状が急激に悪化した場合の連絡方法や対応策を伝えます。

7. 他の資源の活用

  • ペット保険の確認: ペット保険に加入している場合、適用可能な範囲を確認します。

飼い主さんへ

「飼い主さん、ワンちゃんの症状でご心配ですよね。経済的な負担も考えながら、検査や治療をどう進めていくか、一緒に考えてみましょう。まずは、できるだけ費用を抑えつつ、ワンちゃんの状態をしっかり把握することが大切です。詳しくお話を伺って、身体のチェックをさせていただければ、多くの情報が得られます。」

まとめ

犬が斜めに傾く症状は、前庭疾患をはじめとするさまざまな原因が考えられます。セカンドオピニオンを求められた場合や、経済的な負担を考慮する際は、飼い主さんとのコミュニケーションが鍵となります。

獣医師や看護師としては、飼い主さんの不安を理解し、最適な検査・治療プランを一緒に考える姿勢が求められます。飼い主さんにとっても、ワンちゃんの健康と安全を最優先に、獣医師と協力して最善の方法を見つけていきましょう。

ご不明な点やご心配なことがあれば、いつでもご相談ください。一緒にワンちゃんの健康を守っていきましょう。