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FIP 猫伝染性腹膜炎 猫コロナウイルス

🌟猫伝染性腹膜炎(FIP)の概要と当院での治療について🌟

🌸FIPとは

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫のウイルス性感染症の一つで、治療が難しい病気として知られています。猫コロナウイルスの感染により発症し、免疫系が関与していると言われています。しかし、FIPウイルスが発生する機序については未だに解明されていない点が多く、謎の多い疾患です。

  • 発症年齢:主に2歳以下の若齢猫で発症します。
  • 致死率:発症後10日以内に、致死率がほぼ100%と言われてきた難病です。
  • 症状のタイプ:滲出型【ウェットタイプ】と非滲出型【ドライタイプ】の2種類に分類され、両方の症状が同時に見られることもあります。

🌸滲出型【ウェットタイプ】

  • 胸水や腹水の貯留が見られます。
  • 腹水の貯留により腹膜炎を起こし、強い腹痛を伴います。
  • 胸水が溜まることで肺が圧迫され、呼吸困難になることもあります。

🌸非滲出型【ドライタイプ】

  • 体の臓器に肉芽腫と呼ばれるしこりを作り、臓器の機能障害を引き起こします。
  • 発熱や元気・食欲の低下、体重減少が見られます。
  • 肝臓や腎臓の腫大、黄疸が現れることもあります。
  • 中枢神経系が侵されると、後肢の麻痺や発作などの神経症状が出る場合もあります。
  • ブドウ膜炎を引き起こすこともあります。

🌸診断方法

  • 猫コロナウイルス抗体価の測定
  • 猫コロナウイルス定性検査(RT-PCR検査
  • AGP(α1酸性糖タンパク質)検査:93%の症例で >2460 μg/ml の高値を示します。

💡カリフォルニア大学デービス校からの論文で、FIPウイルスに対して非常に有望な抗ウイルス薬が発表されました。その作用はヌクレオシド系逆転写酵素阻害によるもので、この薬に類似した作用を持つ製品が中国で「MUTIAN X」という名前で流通しています。しかし、この薬剤は治験が不十分であり、日本では未承認薬となっています。

🌸当院での取り組み

当院では、従来の治療法だけでは急激に進行し、早ければ1週間で若齢猫が亡くなってしまう現状を目の当たりにし、希望される飼い主様に未承認薬であるCFN(MUTIANの後発品)を提供することにしました。

🌸投薬コントロールについて

  • 治療期間:84日間の投薬コントロールを行い、寛解を目指します。
  • 治療開始の目安:重症の場合には1週間ほど投薬を行い、元気や食欲などの一般状態の改善が見られたら継続治療を提案しています。

💡食欲が回復し、体重が増えた際は投薬用量が適正かをチェックしてください。

💡他のお薬とは前後2時間ほど間隔を空けてください。

💡ガスター(ファモチジン)製剤と併用すると効果が減弱する可能性があります。

💡現在のところ、大きな副作用は報告されていませんが、一般状態に急変がある場合にはご相談ください。

🌸治療費用についての配慮

84日間の投薬コントロールは効果が期待できる一方で、高額な医療費がかかることが大きな課題となっています。特に未承認薬であるため保険適用外となり、飼い主様のご負担が大きくなってしまいます。

当院では、柔軟な治療プランを提案し、猫ちゃんの症状やご家庭の事情を考慮して治療期間や投薬量を調整しています。

症状の改善が見られた場合、ウイルス検査を行い陰性を確認します。その後も定期的な検査で猫ちゃんの健康状態を見守ります。

🌸症状別の投薬量

💡ウェットタイプ

  • 基本投薬量:100mg/kg/日
  • 貧血の進行度:Ht(PCV)が16%以下の重度な貧血では、投薬を導入しても約半数が1週間以内に死亡すると言われています。
体重 (kg) 1日必要量 (mg) 1日必要量 (錠)
~0.25 25 1/8
~0.5 50 1/4
~0.75 75 1/4 + 1/8
~1.0 100 1/2
~1.25 125 1/2 + 1/8
~1.5 150 1/2 + 1/4
~1.75 175 1/2 + 1/4 + 1/8
~2.0 200 1
~2.25 225 1 + 1/8
~2.5 250 1 + 1/4
~2.75 275 1 + 1/4 + 1/8
~3.0 300 1 + 1/2
~3.25 325 1 + 1/2 + 1/8
~3.5 350 1 + 1/2 + 1/4
~3.75 375 1 + 1/2 + 1/4 + 1/8
~4.0 400 2

💡ドライタイプ

    • 早期
      • 投薬量:130mg/kg/日
      • 特徴:貧血を伴わない場合
体重 (kg) 1日必要量 (mg) 1日必要量 (錠)
~0.3 50 1/4
~0.5 75 1/4 + 1/8
~0.7 100 1/2
~0.9 125 1/2 + 1/8
~1.1 150 1/2 + 1/4
~1.3 175 1/2 + 1/4 + 1/8
~1.5 200 1
~1.7 225 1 + 1/8
~1.9 250 1 + 1/4
~2.1 275 1 + 1/4 + 1/8
~2.3 300 1 + 1/2
~2.5 325 1 + 1/2 + 1/8
~2.6 350 1 + 1/2 + 1/4
~2.8 375 1 + 1/2 + 1/4 + 1/8
~3.0 400 2
~3.2 425 2 + 1/8
~3.4 450 2 + 1/4
~3.6 475 2 + 1/4 + 1/8
~3.8 500 2 + 1/2
~4.0 525 2 + 1/2 + 1/8
    • 中期
      • 投薬量:150mg/kg/日
      • 特徴:ブドウ膜炎がある場合、貧血(Ht≦24%)
      • 注意:ウイルスが視神経に侵入すると治療が困難になります。
体重 (kg) 1日必要量 (mg) 1日必要量 (錠)
~0.3 50 1/4
~0.5 75 1/4 + 1/8
~0.6 100 1/2
~0.8 125 1/2 + 1/8
~1.0 150 1/2 + 1/4
~1.1 175 1/2 + 1/4 + 1/8
~1.3 200 1
~1.5 225 1 + 1/8
~1.6 250 1 + 1/4
~1.8 275 1 + 1/4 + 1/8
~2.0 300 1 + 1/2
~2.1 325 1 + 1/2 + 1/8
~2.3 350 1 + 1/2 + 1/4
~2.5 375 1 + 1/2 + 1/4 + 1/8
~2.6 400 2
~2.8 425 2 + 1/8
~3.0 450 2 + 1/4
~3.1 475 2 + 1/4 + 1/8
~3.3 500 2 + 1/2
~3.5 525 2 + 1/2 + 1/8
~3.6 550 2 + 1/2 + 1/4
~3.8 575 2 + 1/2 + 1/4 + 1/8
~4.0 600 3
  • 後期
    • 投薬量:200mg/kg/日
    • 特徴:後肢の麻痺や発作、眼振などの神経症状を伴い、貧血(Ht≦16%)
    • 備考:病気の回復は見込めないことが多く、1週間ほどの投薬を行い、見込みがある場合に継続治療を行っています。

🌸当院での治療内容

  • CFNの投与:ご自宅で体重を測っていただき、その日の体重に合わせて容量を調節してください。
  • 補助的な治療:ステロイドの投与、栄養給餌、皮下点滴などを組み合わせて治療を行っています。
  • 他の薬剤との併用:ステロイドや抗生剤など、症状に応じて組み合わせています。

🌸症例報告 1症例目

 

症例概要

• 動物種: 猫
• 性別: 去勢オス
• 年齢: 7ヶ月(治療開始時)
• 体重: 3.1kg(初診時)
• 主訴: 食欲減退、体重減少、貧血傾向、肺炎の疑い

初診時の診断

• 診断結果:
血液検査と画像診断により、FIP(猫伝染性腹膜炎)のドライタイプを確定診断。
併発症状として肝酵素上昇と細菌性肺炎が確認された。

治療経過

治療開始(2023年6月)

• 治療内容:
• 薬剤投与:
• 抗ウイルス治療: CFN(130mg/kg/day)を開始。
• 抗生剤: アモキクリア、ビクタスを肺炎治療のため処方。
• 肝機能改善薬: ウルソ(50mg 1錠/日)。
• 補液: 脱水防止のため、皮下輸液(scdrip LR 100~150ml)を2週間毎に実施。
• 体重管理: 栄養価の高い子猫用フードを使用。

経過観察(2023年7月~9月)

7月:

• 体重: 3.3kg→3.75kg
• 症状:
• 肺炎の改善が確認され、心拡大も縮小傾向。
• 肝酵素値の横ばい推移を確認し、肝機能改善薬を継続。

8月:

• 体重: 4.04kg→4.15kg
• 症状:
• 食欲・元気ともに回復基調。
• 肝臓の状態も横ばいで推移。
• 特記事項: 頭部脱毛が見られるが、経過観察で自然治癒。

9月:

• 体重: 4.25kg→4.52kg
• 検査:
• ウイルスチェックを継続実施(FIPウイルス定性検査)。
• 肝酵素値のモニタリングを実施し、異常値は見られず。

治療終了(2023年10月~11月)

• 体重: 4.6kg→4.94kg
• 症状: 元気・食欲良好、臨床症状は完全消失。
• 検査結果:
• 最終的なFIPウイルス検査は陰性。
• 肝機能値も正常範囲内に回復。
• 診断: 治療成功と判断し、FIP寛解を超えて「完治」と判断。

🌸2症例目

 

基本情報

• 動物種: 猫
• 性別: 去勢オス
• 年齢: 1歳(治療開始時7ヶ月)
• 体重: 初診時1.75kg、現在3.55kg
• 主訴: 食欲減退、軟便、血便、腹水、体重減少

初診時の診断(2023年4月)

・症状:
食欲あり、元気だが軟便・下痢が続く。
腹部エコーで腹水と左腎臓上に腫瘤を確認。
血液検査で貧血と肝酵素上昇を確認。
診断:
遺伝子検査と臨床症状をもとにFIP(猫伝染性腹膜炎)の確定診断。
ドライタイプ、初期段階での発見。

治療経過

初期治療(2023年4月~6月)

1. 抗ウイルス治療:
• 薬剤: CFN 200mg/day(体重に応じた調整)を投与。
• 補液: 皮下補液(LR 50ml~150ml)を症状に応じて実施。
• 抗炎症薬: ステロイド(プレドニゾロン)を使用しつつ、症状改善に伴い中止。
2. 下痢対応:
• ディアバスター錠とビオイムバスターを追加処方。

中期治療(2023年7月~9月)

1. 改善傾向:
• 軟便・下痢が解消、体重が2.75kg→3.35kgまで増加。
• 腹水消失を確認。
2. 経過検査:
• 血液検査で肝酵素値が横ばいながら、貧血は改善傾向。
• 黄疸・心雑音なし。

寛解(2023年10月~2024年1月)

1. 寛解判断:
• 最終検査でFIPウイルス陰性を確認(ケーナインFIP定性検査)。
• 治療終了後も3ヶ月ごとのフォローアップを継続中。
2. 手術:
• 去勢手術を無事に実施(2023年10月)。

経過および現在の状況(2024年1月)

1. 体重: 3.55kg
2. 症状: 元気・食欲ともに良好。軟便や下痢も完全解消。
3. 特記事項:
• 右目の虹彩に色素沈着あり(先天性)。
• 定期検査でも異常所見なし。

🌸3症例目

基本情報

• 動物種: 猫
• 性別: オス(去勢手術後)
• 年齢: 6ヶ月(治療開始時)
• 体重: 初診時1.55kg、治療終了時2.2kg
• 主訴: 軟便、嘔吐、体重減少、腹部腫瘤の疑い

初診時の診断(2023年3月18日)

• 症状: 元気と食欲はあるものの軟便、嘔吐の症状が確認される。
• 検査:
• 血液検査: 炎症反応、軽度の貧血、肝酵素上昇。
• 腹部エコー: 腎臓近くと中腹部に複数の腫瘤を確認。
• 胸部レントゲン: 肺野は異常なし。
• RT-PCR: 猫コロナウイルス陽性(FIPドライタイプと診断)。

治療経過

治療開始(2023年3月18日~3月31日)

1. 抗ウイルス治療:
• 薬剤: CFN 1+1/4錠~1+1/2錠(体重に応じて調整)。
• 目標: ウイルスの抑制および体重増加。
2. 補助療法:
• 耳掃除: 両耳に耳垢が多く、左耳に赤みが見られたため定期的な耳掃除を実施。
• 補液: 軽度脱水を防ぐため適宜補液を追加。
3. 経過:
• 軟便が徐々に改善。
• 腹部の腫瘤は定期的なエコー検査でモニタリング。

中期治療(2023年4月1日~4月20日)

1. 改善傾向:
• 軟便が解消、元気と食欲が維持される。
• 腹部エコーで腫瘤が縮小。
• 体重が2.2kgまで増加。
2. 経過検診:
• 週1回のエコー検査と血液検査を継続。
• FIP関連の症状(黄疸、貧血)は消失。
3. 投薬:
• CFN 1錠~2錠/日(最終的に1錠で安定)。

寛解(2023年4月21日以降)

1. 治療終了: CFN投薬を終了し、状態を観察。
2. 検査結果:
• RT-PCRで猫コロナウイルス陰性を確認。
• 腹部腫瘤は完全に消失。

🌸4症例目

基本情報

• 動物種: 猫
• 性別: オス(去勢済み)
• 年齢: 1歳半
• 体重: 2.3kg(治療開始時)
• 主訴: 鼻水、呼吸促迫、腹膜炎の疑い

診断

初診時(2024年11月30日)

症状:
鼻水(膿性分泌物)、呼吸促迫、元気消失。
腹部エコーで少量の腹水を確認。
レントゲン画像にて肺炎の悪化が見られる。

検査:
• 血液検査:HCT: 20.4%(低値) → 貧血あり。
ALB: 2.4 g/dl(低値) → 低アルブミン血症。
BUN: 15.5 mg/dl(正常範囲内)。

• 胸部エコー: 肺炎の進行を確認。
• 腹水検査: ケーナインラボによるFIP検査(陽性)。
• 診断: FIP(腹膜炎型)、併発する肺炎。

治療経過

2024年11月30日

1. 初期処置:
酸素室にて酸素投与を開始。
• 薬剤投与:
• CFN(抗ウイルス薬): 1+1/4錠。
• ABPC(抗生剤): 70mg/IV BID。
• プロナミド(胃腸改善薬): ½錠 BID。
• セレニア(制吐剤): 0.23ml。
• 補液: ソルデム3A+ドパミンを追加し、静脈内投与。
2. 給餌:
• 肝リピドーシス防止のため、強制給餌を実施(セレプロパウチなど計100ml)。

2024年12月1日

• 症状: 呼吸促迫が進行。鼻水(膿性分泌物)の持続。
• 処置:
• 酸素室管理を継続。
• 腹水少量(抜去するほどではない)。
• レントゲンにて肺炎のさらなる悪化を確認。

• 薬剤調整:
• ベトルファール: 0.09ml/SC BID。
• マロピタット: ¼錠/日。
• 点眼薬(GM点眼)。

2024年12月2日(最終日)

• 呼吸停止(午前4時)。
• 前日の呼吸悪化を受けて集中治療を継続していたが、呼吸状態が回復せず死亡。