047-700-5118
logo logo

診察時間
午前9:00-12:00
午後15:00-18:00
手術時間12:00-15:00
水曜・日曜午後休診

banner
NEWS&BLOG
FIP 猫伝染性腹膜炎






【獣医療解説】猫伝染性腹膜炎(FIP)の病態と最新治療(2020年版ガイドより)


猫伝染性腹膜炎(FIP)の病態と治療法

この記事では、「猫の治療ガイド2020」第17章 感染症で解説されている猫伝染性腹膜炎(FIP)について、専門的な内容も省略せず、分かりやすく解説します。FIPはかつて不治の病とされていましたが、近年の獣医療の進歩により治療に大きな光が差し込んできました。

1. 病態(どのような病気か)

原因

FIPは、多くの猫が持っている「猫コロナウイルス(FCoV)」が、猫の体内で突然変異して強毒性の「FIPウイルス(FIPV)」になることで発症します。FCoV自体は多くの場合、軽い下痢などを引き起こす程度の弱いウイルスですが、これが変異することで致死率の非常に高いFIPを引き起こします。

メカニズム

FIPは、単にウイルスが増えるだけでなく、そのウイルスに対して猫自身の免疫が過剰に反応してしまう「免疫介在性疾患」です。この過剰な免疫反応が、血管に炎症(血管炎)を引き起こし、全身の様々な臓器にダメージを与えてしまいます。

タイプ

FIPには主に2つのタイプがあります。

  • ウェットタイプ(滲出型): 胸やお腹に水(滲出液)が溜まるのが特徴です。血管の炎症によって血液中の液体成分が漏れ出てしまうために起こります。進行が早いことが多いです。
  • ドライタイプ(非滲出型): 臓器に肉芽腫(にくげしゅ)と呼ばれる炎症細胞の塊ができるのが特徴です。神経症状(麻痺や痙攣)、眼の症状、腎臓や肝臓の機能不全など、肉芽腫ができた場所によって様々な症状が現れます。

2. 診断

FIPの診断は非常に難しいとされています。これは、FIPに特有の症状というものが少なく、他の病気と見分けるのが困難なためです。

診断方法

  • 症状の確認: 元気がない、食欲不振、治りにくい発熱、体重減少など。ウェットタイプなら腹部膨満、ドライタイプなら神経症状などが見られます。
  • 血液検査: 特徴的な所見として、アルブミン(血液中のタンパク質の一種)が減少し、グロブリン(免疫に関わるタンパク質)が増加する「高グロブリン血症」が見られます。A/G比(アルブミンとグロブリンの比率)の低下は、FIPを疑う強い根拠になります。
  • 滲出液の検査(ウェットタイプの場合): 溜まった液体が黄色く粘り気があるかなどを調べます。
  • 画像診断(CT/MRI): ドライタイプで神経症状などがある場合、脳や脊髄の病変を確認するために行われます。

確定診断

最も確実な診断方法は、病変部の組織を採取し、その中にFIPウイルスが存在することを証明する「病理組織学的検査」ですが、猫への負担が大きいため、通常は複数の検査結果を総合的に判断して診断が下されます。

治療方針

かつてFIPは有効な治療法がなく、対症療法(症状を和らげる治療)しかできませんでした。しかし、この文献が発行された2020年頃から、ウイルスの増殖を直接抑える「抗ウイルス薬」が登場し、治療に大きな進歩が見られました。

治療の基本方針は、「抗ウイルス薬」でウイルスの増殖を抑え、「抗炎症薬」で過剰な免疫反応を抑えることです。

1. 抗ウイルス薬

この文献では、当時(2020年時点)まだ日本では認可されていませんでしたが、治療の選択肢として海外の臨床試験で効果が報告された以下の薬が紹介されています。

薬の名前 投与量・方法 概要
GS-441524
(ヌクレオシド・アナログ)
4 mg/kg、皮下注、1日1回 FIP症例猫26頭中18頭の猫に治療効果があった。少なくとも12週間投与。
GC376
(3C様プロテアーゼインヒビター)
15 mg/kg、皮下注、1日2回 FIP症例猫26頭中20頭の猫に治療効果があった。非滲出型(ドライタイプ)には効きにくい。
クロロキン 10 mg/kg、皮下注、3日に一度 実験的な症例において3頭中2頭の猫に症状の改善および延命効果があった。
  • GS-441524: ウイルスが遺伝子を複製するのを阻害する薬(ヌクレオシドアナログ)。
  • GC376: ウイルスが増殖過程で必要とする酵素(プロテアーゼ)を阻害する薬。

これらの薬は、治療の第一選択肢として考えられると記載されています。

2. その他の治療薬(補助的な治療)

抗ウイルス薬と並行して、以下の薬が使われることがあります。

  • イトラコナゾール(抗真菌薬): 10 mg/kg、経口、1日1回。FIPウイルスに対して増殖を抑制する効果が実験的に確認されています。
  • メロキシカム(非ステロイド性抗炎症薬): 0.03〜0.05 mg/kg、経口、1日1回。炎症と痛みを和らげます。
  • プレドニゾロン、デキサメタゾン(ステロイド薬): 過剰な免疫反応と炎症を強力に抑えるために使用されます。ただし、ウイルスの増殖を助長する可能性もあるため、単独での使用は推奨されていません。抗ウイルス薬と併用することが基本です。

Key Point(治療の要点)

  • 治療の目標: 治療の対象はウェットタイプ、ドライタイプを問わず全てのFIP症例です。治療の目標は、臨床症状(元気、食欲など)の改善と、血液検査の数値(特にA/G比、リンパ球数、黄疸の数値など)が正常範囲に戻ることです。
  • 飼い主への説明: 治療は長期間にわたる可能性があり、高額な治療費がかかること、また、治療中断や再発のリスクがあることを事前に飼い主が十分に理解し、同意を得ることが非常に重要です。
  • 治療のポイント: FIPの治療は複数の要素が絡み合っており、猫の状態に応じて治療法を柔軟に変えていく必要があります。薬が効かずに症状が悪化したり、再発したりすることもあるため、治療の選択肢について常に考えておく必要があります。

3. 予後(今後の見通し)

FIPを発症した猫の予後は、以前は絶望的でしたが、抗ウイルス薬の登場によって大きく改善しました。治療にうまく反応すれば、寛解(症状が落ち着いた状態)に至る可能性があります。しかし、治療がうまくいかなかったり、重度の神経症状があったりする場合には、予後は依然として厳しいです。

【ご注意】

最新の情報や実際の治療については、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。