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猫の腎臓病【ステージごとの治療】

治療の要点と注意事項

脱水の補正: 水分補給を適切に行い、脱水状態を防ぎます。

電解質の補正: カリウムやナトリウムなどの電解質バランスを維持します。

感染症の除外: 尿路感染症などがないか確認し、適切に対処します。

尿毒症の対症療法: 制吐剤や活性炭製剤を使用し、症状を緩和します。

貧血への対処: ヘマトクリット値をモニタリングし、必要に応じて治療を行います。

薬剤の注意点: アルミニウム中毒や高カルシウム血症に注意し、薬剤を選択します。

ステージ I

クレアチニン濃度: <1.6 mg/dL

SDMA値: <18 μg/dL

症状: 腎機能の障害は見られますが、ほとんど無症状です。

治療・管理:

  • 食事療法:
    • 低タンパク・低リン・ナトリウム制限の食事を開始します。
    • 処方食を与えることで、生存期間が約2倍以上延びることが報告されています。猫の場合、2カ月かけて徐々に食事を変更します。
    • 軽度の高カルシウム血症が見られる場合は、食事療法を中止します。
  • 水分補給:
    • 新鮮な水をいつでも飲める環境を整えます。
    • 脱水が見られる場合は皮下点滴を行います。

ステージ II

クレアチニン濃度: 1.6~2.8 mg/dL

SDMA値: 18~25 μg/dL

状態: 軽度の臨床症状(食欲低下、軽い嘔吐など)が見られる場合があります。

腎機能残存率: 約33~25%

治療・管理:

  • 蛋白尿の治療:
    • UPCが0.4以上であれば、蛋白尿に対する治療を開始します。
  • ラプロスの使用:
    • 腎保護作用を持つ薬剤で、腎機能の維持・改善を図ります。
  • 血圧管理:
    • 必要に応じて降圧薬を併用し、血圧をコントロールします。
  • リン吸着剤の使用:
    • 血液検査でリン濃度が高い場合は、リン吸着剤を投与します。
  • 水分摂取の徹底:
    • 必要に応じて皮下点滴を行います。
  • カリウム補充:
    • 低カリウム血症が認められる場合は、カリウムの補充(経口投与や点滴)を行います。

ステージ III

クレアチニン濃度: 2.9~5.0 mg/dL

SDMA値: 26~38 μg/dL

腎機能残存率: 約25~10%

状態: 中等度の臨床症状(食欲不振、嘔吐、脱水など)が見られます。

治療・管理:

  • ラプロスの継続使用:
    • 腎機能の維持・改善を図ります。
  • 血圧管理:
    • 降圧薬(アムロジピンなど)を使用し、血圧を160mmHg以下に維持します。
  • リン管理:
    • リン吸着剤を用いて、血中リン濃度を5.0 mg/dL以下にコントロールします。
  • 貧血の治療:
    • 貧血が進行している場合、ダルベポエチンの注射を行い、ヘマトクリット値を改善します。
  • 栄養管理:
    • 体重維持のため、必要に応じて強制給餌や経管栄養を行います。
  • カリウム補充:
    • 低カリウム血症がある場合は、引き続きカリウムの補充を行います。
  • 皮下点滴:
    • 定期的に皮下点滴を行い、脱水を防ぎます。

ステージ IV

クレアチニン濃度: >5.0 mg/dL

SDMA値: >38 μg/dL

状態: 尿毒症の症状が顕著に現れ、体重減少や衰弱が進みます。

治療・管理:

  • 点滴:
    • 適切な水分補給を行いますが、過剰な水分は避け、量を調整します。
  • 制吐剤の使用:
    • 尿毒症による嘔吐や食欲不振には、ガスター、プロナミド、セレニアなどの制吐剤を使用します。
  • 栄養管理:
    • 食事が摂れない場合は、経管栄養や強制給餌を検討します。
  • リン濃度の目標値:
    • 血中リン濃度を6.0 mg/dL以下に維持します。
  • QOLの維持:
    • 生活の質(QOL)の維持を第一の目標とし、薬剤の選択には副作用や腎臓への負担を考慮し、不要な投薬は避けます。

他の要因の除外

腎臓病が悪化する際には、尿路閉塞感染症などの他の要因がないか確認し、これらの問題を適切に治療します。

SDMA値について

SDMA(対称性ジメチルアルギニン)は、腎機能の早期損傷を検出できる重要な指標です。

高リン血症の管理

リン吸着剤の併用: 処方食を与えてもリンの数値が高い場合、リン吸着剤を併用します。

リン吸着剤の使用: 高リン血症が確認された場合、腎機能のさらなる悪化を防ぐためにリン吸着剤を使用します。リン制限食と併用することで、効果を最大化します。

注意点:

  • アルミニウム含有製品:
    • アルミニウム中毒のリスクがあるため、使用には注意が必要です。
    • 中毒症状: 小球性低色素性貧血、全身性筋虚弱など。
  • カルシウム含有製品:
    • 高カルシウム血症がある場合は、カルシウム含有リン吸着剤の使用を減らします。

リンの管理: CKDの進行に伴い血中リン濃度が上昇し、骨が脆くなるリスクが高まります。腎臓病の猫では、特にリンの管理が重要です。

リン吸着剤の種類:

  • クレメジン: 活性炭製剤で、尿毒症状を抑制します。他の薬とは間隔を空けて投与します。
  • レンジアレン: ナトリウム含有のリン吸着剤ですが、ナトリウム制限が望ましいため使用には注意が必要です。

貧血の管理

原因: 腎機能が低下すると、エリスロポエチンの分泌が減少し、貧血が進行します。特にステージ3や4では、貧血管理が重要です。

治療方法:

  • エリスロポエチンやダルベポエチンの投与:
    • ヘマトクリット値が25%以下になる場合、これらの薬剤を週1回または2~3週間ごとに投与します。
  • 鉄補充:
    • 鉄不足が疑われる場合、鉄剤の投与を行います。
    • 注意: 過剰な鉄の投与は避け、定期的な血液検査でモニタリングします。

その他の重要なポイント

栄養管理: 必要カロリーを十分に摂取することが重要です。腎臓病用の処方食を食べることが望ましいですが、食欲がない場合は食欲刺激剤の使用も検討します。

食欲刺激剤の使用:

  • ミルタザピン: 効果的で、投薬頻度が少ない(2日に1回程度)ため、投与が楽です。
  • シプロヘプタジン: 一日1~2回の投与が必要で、ミルタザピンの効果を打ち消す可能性があるため、併用は避けます。

UPC(尿タンパク・クレアチニン比)とは?

UPC(尿タンパク・クレアチニン比)は、尿中にどれだけのタンパク質が漏れ出しているかを評価する重要な指標です。この値を測定することで、腎臓の機能障害の程度や病気の進行状況を把握できます。

  • 正常な腎臓:タンパク質はほとんど尿中に出てきません。
  • 腎臓が損傷:タンパク質が尿中に漏れ出し、UPC値が上昇します。

蛋白尿の種類

1. 糸球体性蛋白尿

原因:腎臓のフィルターである糸球体が損傷。

特徴:アルブミンなどの大きな分子量のタンパク質が尿中に漏れます。

2. 尿細管性蛋白尿

原因尿細管でのタンパク質の再吸収が不十分。

特徴:小さな分子量のタンパク質が尿中に現れます。

UPC値の解釈

  • UPC値が0.2未満:正常。ほとんど問題なし。
  • UPC値が0.2~0.4:境界線上。経過観察が必要。
  • UPC値が0.4以上:蛋白尿があると判断。腎臓病の進行が疑われます。
  • UPC値が1.0以上:蛋白尿の管理や治療が必要。

蛋白尿の管理と治療

1. 定期的なモニタリング

UPC値が0.4~1.0の場合:定期的に検査を行い、UPC値の変動を観察します。

2. 原因の特定

UPC値が1.0~2.0の場合:他の病気の有無を調べます。

  • 高血圧
  • 感染症
  • 炎症性疾患など

原因が特定できなくても、腎臓の状態を継続的に観察します。

3. 薬物療法の開始

UPC値が0.4以上で蛋白尿が持続する場合、以下の治療を検討します。

ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)

:ベナゼプリル(商品名:フォルテコール)

効果:腎臓の血管を拡張し、糸球体内の圧力を下げて尿タンパクの排出を減少させます。

注意点

  • 血圧や腎機能に影響を与える可能性があります。
  • 脱水状態では使用を控える必要があります。
  • 副作用として、高カリウム血症や血圧低下のリスクがあるため、定期的な血液検査と血圧測定が必要です。

ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)

:テルミサルタン(商品名:セミントラ)

効果:ACE阻害薬と同様に尿タンパクの排出を減少。特に猫の蛋白尿管理に有効です。

メリット

  • ACE阻害薬よりも副作用のリスクが低いとされています。
  • 高血圧の管理にも有効です。

4. 低タンパク食の導入

目的:腎臓への負担を減らす。

方法:低タンパク質の療法食に切り替えます。

ポイント:必須アミノ酸を十分に含む製品を選び、栄養バランスを保ちます。

5. アスピリンの使用

適応:血中アルブミン値が2.0g/dL以下の場合。

目的:血栓予防のために低容量のアスピリンを使用。

注意点:出血リスクや副作用があるため、獣医師の指示に従ってください。

猫と犬の違い

猫の場合

特徴:尿中にタンパク質が検出されると、病気が進行していることが多い。

治療:テルミサルタン(セミントラ)が有効。

注意点:高血圧の有無や他の臓器の状態も考慮し、総合的な治療が必要。

犬の場合

特徴:比較的早い段階で尿中にタンパク質が現れることがある。

治療:ACE阻害薬が第一選択。最近ではテルミサルタンの使用も検討されています。

最新の知見と補足

1. テルミサルタンの適応拡大

犬への適応も進められており、蛋白尿の減少効果が報告されています。

効果の比較:テルミサルタンはベナゼプリルよりも尿タンパクの減少効果が高い可能性があります。ただし、個体差があるため、獣医師の判断が重要です。

2. 治療開始の基準

最新のガイドラインでは、UPC値が0.4以上であれば蛋白尿に対する治療を検討します。早期の介入が病気の進行を遅らせる可能性があります。

その他の重要なポイント

他の病気の有無の確認:高血圧、感染症、炎症性疾患などが蛋白尿の原因となる場合もあります。総合的な診断が必要です。

尿検査の正確な方法

  • 膀胱炎や尿結石症では、膀胱壁からタンパク質が出ることがあります。
  • 朝一番の尿ではなく、2回目以降の尿で検査すると、より正確な結果が得られます。
  • ペットシーツでの採尿方法:シーツを裏返し、ビニール部分に尿を集めます。

ACE阻害薬の使用時の注意点

  • 脱水状態での投薬は禁忌です。
  • クレアチニン値が2mg/dL以上の場合、減量を検討します。
  • 低血圧によるGFR(糸球体濾過率)の低下に注意。

UPC値のモニタリング:UPC値が0.4以上の場合、治療を開始します。目標はUPC値を0.4以下に保つことです。

CKDに伴う高血圧の発生率とリスク

猫の場合

発生率:CKD(慢性腎臓病)を持つ猫の約20〜65%が高血圧を発症すると報告されています。

目のリスク:高血圧を持つ猫のうち、50〜100%で網膜に病変が見られ、視力低下や失明のリスクがあります。

犬の場合

発生率:CKDを持つ犬の約31〜93%が高血圧を伴うと報告されています。

高血圧を放置すると

  • 腎機能のさらなる悪化:腎臓への負担が増え、病気の進行が早まります。
  • 目の障害:網膜出血や剥離により、視力低下や失明のリスクが高まります。
  • 脳への影響:脳出血や神経症状が起こる可能性が増します。
  • 心臓病のリスク:心肥大や心不全などの心臓疾患を引き起こす恐れがあります。

高血圧の治療方針

第一選択薬:アムロジピン(カルシウムチャネルブロッカー)

効果:血管の平滑筋に作用し、血管を拡張して血圧を下げます。

使用方法:獣医師の指示に従い、適切な用量で投与します。

目標値:

  • 収縮期血圧を160mmHg以下に抑えることが理想です。
  • 猫の場合、興奮していない落ち着いた状態での測定が重要です。

RAS系の活性化と併用療法

RAS系の活性化:アムロジピンを単独で使用すると、RAS系が活性化し、長期的には腎臓に負担をかける可能性があります。

併用療法:

  • ACE阻害薬(例:ベナゼプリル)やARB(例:テルミサルタン)をアムロジピンと併用することで、RAS系の活性化を抑制し、より効果的な血圧管理が期待できます。
  • ただし、猫におけるACE阻害薬やARBの降圧効果は限定的であると報告されています。

血圧の分類と治療開始の基準

正常血圧:収縮期血圧が<150mmHg

境界的な高血圧:150〜159mmHg

高血圧:160〜179mmHg

重度の高血圧:≥180mmHg

治療開始のタイミング

  • 収縮期血圧が160mmHg以上の場合、降圧治療を開始します。
  • 臓器障害(網膜の剥離や出血、心肥大など)が認められる場合は、即座に治療を開始します。

治療のステップとモニタリング

治療のステップ

  1. 食事性ナトリウム制限
    • 塩分の摂取を控えることで、血圧の上昇を抑えます。
    • 腎臓用の療法食はナトリウムが制限されており、おすすめです。
  2. 薬物療法
    • アムロジピンの投与:第一選択薬として使用します。
    • ACE阻害薬やARBの併用:必要に応じて併用します。ただし、猫では降圧効果が限定的であるため、蛋白尿の管理を主目的とします。

定期的なモニタリングと治療の調整

初期フォローアップ:

  • 投薬開始から7〜14日後に再診し、全身状態や腎機能、血圧の変化を確認します。

血圧の目標管理:

  • 140〜160mmHgを目指して管理します。
  • クレアチニン値が急激に上昇した場合、薬の減量や中止を検討します。

血圧測定のポイント:

  • オシロメトリック法またはドップラー法を使用して正確に測定します。
  • 興奮やストレスによる一時的な上昇(白衣高血圧)を考慮します。

注意すべき副作用

  • 低血圧
    • 血圧が下がりすぎると、虚弱や頻脈、食欲不振などの症状が出る可能性があります。
  • 腎機能の悪化
    • 投薬によりクレアチニン値が急上昇する場合、腎機能が悪化している可能性があります。

猫と犬の高血圧管理の違い

猫の場合

  • アムロジピンが第一選択薬です。
  • 高血圧による目の障害が多いため、早期の治療が重要です。
  • ACE阻害薬やARBは、主に蛋白尿の管理を目的として使用されます。
  • 左室肥大がないか、定期的に確認します。

犬の場合

  • ACE阻害薬(例:ベナゼプリル)が第一選択とされてきましたが、降圧効果は限定的であるため、最近ではアムロジピンの使用が推奨されています。
  • 必要に応じて、ACE阻害薬とアムロジピンの併用を検討します。
  • 心臓への影響
    • 高血圧が長期間放置されると、心臓や腎臓への負担が増し、さらなる悪化を招く可能性があります。
    • 定期的な心臓超音波検査が推奨されます。
  • 肺水腫
    • 甲状腺機能亢進症心筋症を併発している場合、輸液管理が必要です。
    • 過度な輸液は肺水腫を引き起こす可能性があるため、注意深いモニタリングが求められます。
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