脾臓ってどんな臓器?
- 場所・形:お腹の中で、胃の近くにあるスポンジのようにやわらかく細長い臓器です。
- 主な3つの役割:
- 血液のフィルター:古くなった赤血球や傷ついた血小板を取り除き、きれいな血液を保ちます。いわば体内の「リサイクルセンター」です。
- 血液の貯蔵庫:いつでも使えるように、必要なときのために血液をためておきます。
- 免疫システムの一部:白血球を作り、体内に入ってきた細菌や異物と戦います。全身の免疫を助け、血液の量やバランスも調整します。
ポイント:脾臓は健康維持に大きく関わりますが、なくても命に支障はありません。肝臓や骨髄、リンパ節などがその働きをカバーしてくれるため、摘出しても普段どおり元気に生活できます。(人間では感染リスクが少し上がることがありますが、犬・猫では重い感染症の報告はほとんどありません。)
脾臓に「できもの」ができること(脾臓腫瘍)
症状と発見のタイミング
- 初期は無症状:腫瘍があってもしばらくは元気や食欲に変化が出にくく、健康診断のエコー検査でたまたま見つかることが多いです。
- 気づきにくいサイン:
- 元気がなくなる
- 疲れやすい
- 食欲が落ちる
- 体重が減る
- お腹が張る
腫瘍が大きくなると…
- 破裂の危険:脾臓は血液を多くためる臓器。良性・悪性に関わらず大きくなると破れて、腹腔内で大出血を起こすことがあります。
- ショック症状:歯ぐきが白くなる、急に倒れる、呼吸が荒くなる
- 緊急手術が必要な、命に関わる状態です。
- 「静かなる殺し屋」血管肉腫:特に悪性の血管肉腫は、自覚症状がほとんど出ずに破裂することが多いため要注意です。
良性腫瘍 vs. 悪性腫瘍
| 種類 |
特徴 |
発生頻度例 |
| 良性腫瘍 |
転移しない。局所的に大きくなるのみ。血腫:血のかたまり、結節性過形成:正常組織の過剰増殖。 |
犬の約半分。破裂していないしこりの70.5%(他研究では57.7%)が良性と報告。 |
| 悪性腫瘍(がん) |
周囲に浸潤したり、他臓器(肝臓・肺・リンパ節など)に転移。 |
半数近くが血管肉腫、その他にリンパ腫など。 |
誤解しやすい点:「しこり=がん」ではありません。良性のことも多いので、必ず病理検査で調べる必要があります。
診断の流れ
- 触診・血液検査:
- お腹を触ってしこりの有無を確認
- 貧血や出血傾向、他の臓器の状態をチェック
- 画像検査:
- 超音波(エコー)検査:簡単にお腹の中を観察
- レントゲン検査
- CT検査:造影剤を使うと腫瘍の血流パターンから良性か悪性か予想できることも。例:トイプードルで7×12×8cmのしこりが造影で悪性の可能性が低いと判断されたケース。
- 病理診断(確定診断):
- 針生検は出血リスクが高く中止することが多い
- 摘出した脾臓を顕微鏡(病理検査)で調べ、良性か悪性かを特定
治療の基本:脾臓摘出術(摘脾術)
- 手術内容:
- 全身麻酔でお腹を開き、脾臓と腫瘍をまるごと取り出す
- 脾臓に続く血管を結んで摘出
- 大出血がある場合は輸血しながら迅速に止血
- 手術時間:
- 平常時であれば約1時間前後
- 緊急手術や巨大腫瘍の場合は数時間かかることも
- 術後の検査:
- 摘出した組織を病理検査に出し、最終診断が約1週間後に判明
術後の治療と予後
良性腫瘍だった場合
- 手術で完治
- その後の問題はほとんどなし
- 研究例:平均余命436日以上のケースも多数
悪性腫瘍(がん)だった場合
- 血管肉腫 (HSA)
- 血管細胞ががん化。診断時には転移していることが多い。
治療:摘脾術(緊急時は救命手術)、化学療法(ドキソルビシン等)、分子標的薬・免疫療法など。
予後(生存期間):
- 手術のみ:1~3ヶ月
- 手術+化学療法:4~6ヶ月、10~15%が1年以上生存
- 新規療法併用例:中央値211日
- 組織球性肉腫
- 非常に高悪性。
治療:手術+化学療法。
予後:一般に厳しいが、局所性なら長期生存例も。
- リンパ腫
- リンパ球のがん。
治療:化学療法主体。
予後:低悪性度なら年単位の生存、高悪性度は数ヶ月~1年程度。
抗がん剤プロトコル
| 日 |
薬剤 |
投与量 |
投与方法 |
| 1 |
ドキソルビシン |
30mg/m2 |
静脈投与 |
|
シクロフォスファミド |
100〜150mg/m2 または 150〜200mg/m2 |
静脈投与、3〜4日に分けて経口投与 |
| 8 |
ビンクリスチン |
0.75mg/m2 |
静脈投与 |
| 15 |
ビンクリスチン |
0.75mg/m2 |
静脈投与 |